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「退学した後はどうするのだ?」
「さあ」
あっけらかんと冬は答えた。実際に、冬はこれから先の事など考えていないのだ。
雪が殺された日から七年間、目的は犯人だけであったし、生きる意味もそれしかなかった。何度も自殺しようとしたこの命など、目的を達成した今ではどうだって良い。
ただ、本家を継ぐだろう事はなんとなく予想はついていた。雪の分までと頑張ってきた為、冬の成績は申し分ないし、学校態度も悪くない。
模範的生徒であるから、本家も分家も文句は無いはずだ。ただ、"中退"という二文字がついてまわるくらいだ。冬自信はそれくらい構わないと思っている。
敵は多ければ多い程良い。冬は自分が生きる地獄を味わうことが雪への償いだと考えた。
その心境も察した理事長は困って眉を下げる。幼い頃から冬と雪に慕われていた彼は、冬が自身を責めている姿に胸が痛んで仕方がない。
立場上は下位であっても、理事長にとって彼ら双子は可愛い弟のような存在だ。冬のせいではない。そう言えば良い事は分かっているが、言っても意味が無い事を知っている。どうしようもないのだろうか、と理事長は目を伏せた。
「…悠にぃ」
唐突に冬は理事長、白神悠の名前を呼んだ。それも、昔の呼び名で。悠は目を見開いて冬を凝視する。
当の本人はぼんやりとした目で悠を見ていた。否、悠を見ているのでなく、いるはずのない"誰か"を思い浮かべているのだ。
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