30



 次の日の朝。
 朝というもののまだ太陽は昇っていない為辺りは薄暗い。病院内も寝静まり物音もしない。
 緊急だったので一人部屋である明は起き上がって繋がれていた管を抜いた。ベッドから下りて立ち上がったがよろけてしまう。
 明は小さく舌打ちをし壁伝いに部屋を出た。ナースステーションは偶々誰もいなかったので松葉杖を拝借しエレベーターを使って外に出た。


「何故ここにいる」


 45度の角度で頭を下げたスーツ姿の男に明は呻くように呟いた。無言を貫く男に嘆息する。どうせ翠里の差し金だろうと検討をつけた明は再び声をかける。


「無茶を言って悪かったな」


 顔を上げた男は目元の皺を深くして「いえ」とだけ言って乗り付けていた車のドアを開けた。小さく礼を述べて乗り込んだ。男も運転席へと座り後ろを向かずに尋ねる。


「どちらまでですか?」
「学園まで」
「承知」


 静かに発進した車内で目を閉じる。瞼の裏に浮かぶのは透明な彼。


(間に合え)


 彼が消えてしまう前に。

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