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「呆然として、棺に入った雪君以外何も見えていないようだったよ。泣きもせず、言葉を掛けるでもなく、ただ雪君の頬に手を添えて静かに見つめていた。当時自分の息子と同じ年齢の小さな子どもがだよ?泣く事も出来ないでいる姿を見ると、今まで数え切れない遺族を見てきたけど、その中でも一番心が抉られた」


 吐露するように並べた言葉の端々に悔しさが滲み出ていた。その光景が容易に想像出来て、しかし冬の痛みは到底想像もつかなくて、明は強く目を閉じた。


「…話を戻そうか」


 頷いた明に翠里はまた話し出した。


「事件の内容は至ってシンプルだよ。パーティーでシャンパンに紛れさせて毒を入れた。しかもシャンパンといっても当時10歳の雪君の為の子ども用シャンパンだから、飲む人物は限られていた」
「なら犯人はすぐ分かるんじゃないか?」
「甘いよ、明」


 配っていたメイドや執事は白だ。明は詰めていた息を吐き出した。確かにそんなに堂々とする訳が無いのだ。
 翠里は手帳を捲り、あるページで手を止めた。そしてそれを朗読する。
「"子どもが子どもにシャンパンを渡しているのを見た"」
「それって」
「目撃情報だよ」

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