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 美形(しかも瓜二つ)が同じテーブルに座った事によって店内の客を始めとし、ウェイターまでもが様子を伺っていた。二人は声のトーンを落として話していた為、あまり聞き取ることは出来なかったが、明の熱烈な告白はハッキリと店内に響いた。
 その途端、女性はブーイングの嵐、男性はからかいの声をあげるが明の耳には届かない。たとえ届いていたとしても堂々としていただろうが。


「まさか息子から恋バナが聞けるとは思わなかったよ。成長したねぇ」


 父親の顔で柔らかく笑った翠里の言葉に、明白に周囲は驚愕する。「父親!?」と阿鼻叫喚である。
 確かに翠里はほとんど明と変わらず、少々目元に皺がある程度な為に周りは兄弟だと思っていたのだ。明は苦虫を噛み潰したような表情で翠里から目を逸らした。


「本当は教える気なんてなかったけど気が変わった。…場所を変えようか」


 残っていたコーヒーを飲み干して立ち上がった。明も飲み下して翠里について行く。明が財布を取り出すのを手で制して翠里は事も無げに支払った。


「おい」
「たまには親らしいことしようかと思ってね」


 明は父親の横顔を見つめて黙った。無視した訳ではなく、親のけじめというものなのだろう、と解して何も言わなかったのだ。昔から仕事一筋で滅多に家に帰らなかった事を気にしているのだろう。
 確かに恨みはしたが、そうでなければ翠里ではないと今では思っている。明は久々に会った父親の顔に少しだけ老いを感じた。

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