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「―――明、こっちこっち」


 明が喫茶店へと入ると、カランコロンという可愛らしい音が鳴った。それと同時に自分の名前を呼ばれて盛大に顔を顰める。
 嘆息して足を動かすと、そこには自身とよく似た男が。親族からもドッペルゲンガーとまで言われる父親を一睨みしてドカリと椅子に座った。


「ホット」
「はいはい。店員さん、ホット二つよろしく」


 翠里は息子よりも柔らかい目元を細めて注文した。見た目は人が好さそうに見えるが油断してはいけない。常に笑顔を保つ人間は何を考えているのか分からず、それ故に恐ろしいのだ。
 隙を見せない翠里に明は眉根を寄せる。


(この狐めが)


「明、久しぶりに会った親に対して嫌そうな顔は無いとは思わない?」
「知るか」
「相変わらずだねぇ」


 そう言って笑顔を崩さない翠里はやはり掴み所がない。明は無視して出されたコーヒーに口をつけた。翠里も同じくコーヒーを一口飲む。

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