15



「…そう、何度思ったか知れない。今も思う。"僕は何で生きているんだろう"って」


 生きる意味を失ってしまったというのに何故生きているんだろうね。独り言のように、自分に言い聞かせるように言ってクスリと小さく笑った。瞳は悲しげに細められているのに口元だけは笑んでいて、それは奇妙な笑みだった。
 明はどうしようもなくて、しかし抱き締めるのには躊躇し迷った挙句、小さな白い手に自分の手を重ねた。


「………?」
「俺の為に生きる、ってのは駄目か?」


 不思議そうに見上げてくる冬に尋ねる。
 黒い目は深すぎて吸い込まれそうだ。全てを諦めたような、それでいて全てを受け入れたような色を宿している。
 その瞳が不意に細められた。それは先程の悲しみはなく、ただ愉しげだった。


「本気?」
「本気だ」


 真摯な目でゆっくりと明が言うと、冬は「…ふぅん」と言って瞳から感情を消した。ふふ、と口先だけで笑って明を見る。


「狩矢、関わるのはもう止めた方が良い」
「何故だ」
「僕はもう"僕"として生きていけないから」


 明、そして自分自身でさえも拒絶するように立ち上がり歩き出す。明は後ろ姿を無言で見つめ続けていた。

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