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「―――…そしてその日、雪は殺された」


 僕の代わりに。ポツリと呟いた声は淡々としたものだったが、内に秘められた混ざった負の感情は隠しきることは出来なかった。
 自分が体調を崩さなければ。あの時パーティーに参加していれば。渦巻く心は自分を責め続ける。
 あの日、雪は"暗殺"されたのだ。今時スパイという概念は薄れているが、白神家を快く思っていない人物によるものであると分かっている。幸か不幸か冬そっくりだった雪は、長男である冬と間違われて殺されてしまったのだ。


「毒殺、だった」


 発した声が震えたのを自覚した冬は目を強く瞑った。葬儀は外部に漏れないように静かに行われた。
 棺の中に横たわった雪は、寝ているようにしか思えなかった。そっと自分と同じ顔に手を添えたが、ひんやりとしていて彼が生きていない事を認識せずにはいられなかった。
 その途端、何かがぶつりと切れたように冬は頭の中が真っ白になった。頭に過ったのはただ一つ。


「"僕が死ねば良かったのに"」


 木葉の間から見える青色を仰ぐ。明はじっと冬を見つめ、眉を寄せる。
 消えてしまいそうだ、と。再びそんな感情を抱く。実は冬という人間は透明なのかもしれないと思う程に。この手で触れる事が出来ないのではないかと不安になった。

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