13
「部屋に母がいる。整えてもらいなさい」
私も支度をしなければならないから、と父は冬と雪の頭を一無でして部屋を出た。雪も続いて出ようとして、クン、と引っ張られる感覚に振り向いた。冬が雪の服の裾を持っていたのだ。
「冬?」
「ゅ、き…」
小さな声で「ごめんね」と言うのが聞き取れて、雪は首を振った。
「僕が聞きたいのはその言葉じゃないよ」
その意図を数秒掛けて噛み砕いた冬は、小さく微笑んだ。
「…ぁ、りがと」
「どういたしまして」
雪も笑い返して、冬の目元を手で覆った。掌の下で目を伏せる気配があった後、すぐに穏やかな寝息が聞こえてきた。
そっと手を外して熱のせいで少し赤らんでいるが、白い滑らかな頬にその手を添える。じっと見つめていたかと思うと、雪は冬に顔を近づけた。赤い唇に、自分の唇を重ねてすぐに離す。
「僕は罪人だ」
苦しそうな声音で、しかしそれでいて朗らかに笑った。晴れ晴れとしたその表情に、その場に誰かがいたならば目を離せないほどだろう。
「…愛してる」と囁いたその言葉は吐息に消えた。襖を音を立てないように雪が閉めて足音が遠のいたのを感じて、冬は目を開ける。
「…ゅき…?」
冬は起きていた。否、起きていたというよりは眠りが浅かったと言うべきか。微睡む中で触れた唇の感触。自分の唇を指でなぞって襖を見つめた。回らない思考に早々と考えることを放棄して眠りについた。
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