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「少し、困ったことになってな」


 言う通り困ったような表情をする父に、冬と雪は同時に首を傾げた。そのシンクロ度は流石双子と言ったところか。


「今日は大事な立食パーティがあってな」
「はい、聞いておりますが」


 拙いながらも敬語を使う雪。それは冬も同様で、白神家の教育方針である。


「冬と立ち合わなければならなかったのだが」


 父は冬を見やった。少し息を荒くして、風邪のせいで潤んだ瞳と交わる。


「もうし、わけ…」


 盛大に咳き込む冬に父は慌ててその背中を摩する。大丈夫だ、と声を掛ける父に、冬はようやっと安定した。


「冬はこの状態だ。けれどどうしても外せない」
「僕が行けばよろしいんですね」


 父の言いたいことを的確に理解して雪は聞いた。首を縦に振ったのを見て、雪は立ち上がった。


「なら、用意をしなければ」
「すまんな」
「いいえ、冬の代わりになるのならばいくらでも」


 申し訳なさそうに顔を歪める父に、雪は柔らかく笑んだ。
 幼いながらも雪は自分の役割を知っていた。冬を兄とは呼べないこと。弟であるが故に冬の代わりにと、差し出されること。
 雪は自分が弟であることを、冬が兄であることを、憎んではいなかった。それが自分の役目であると受け入れたのだ。
 寧ろ雪は、自分が冬そっくりの容姿をしていることに感謝していた。そうでなければ冬の役には立てない。雪はそれほどにまで兄を愛していた。

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