09



「―――悪かった」


 離れた温もりにどこか寂しさを感じて、振り切る。冬は明を見上げた。


「…それは、何に対して?」


 なんとなく、冬は分かっていた。彼がいつか自分のことを知る日が来ることを。この男ほどの実力者ならば、容易く知ることが出来るから。


「…全部だ」


 普段冷徹な明が、顔を歪めるのを不思議そうに見る。


(どうして、君がそんな顔をするの?)


「お前の口から聞きたい」
「何故」
「俺の我儘だ」


 一つ溜息を吐いて、口を開く。


「いいよ、別に」


 冬は自身に驚く。今まで誰にも話したことは無かった。話す気など無かったのに。了承した自分に一番驚いたのだ。


「座れば」


 明が座ったのを確認して静かに目を閉じた。目蓋の裏に、あの日の出来事を思い出す。それは鮮明に残っていた。

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