「―――悪かった」
離れた温もりにどこか寂しさを感じて、振り切る。冬は明を見上げた。
「…それは、何に対して?」
なんとなく、冬は分かっていた。彼がいつか自分のことを知る日が来ることを。この男ほどの実力者ならば、容易く知ることが出来るから。
「…全部だ」
普段冷徹な明が、顔を歪めるのを不思議そうに見る。
(どうして、君がそんな顔をするの?)
「お前の口から聞きたい」
「何故」
「俺の我儘だ」
一つ溜息を吐いて、口を開く。
「いいよ、別に」
冬は自身に驚く。今まで誰にも話したことは無かった。話す気など無かったのに。了承した自分に一番驚いたのだ。
「座れば」
明が座ったのを確認して静かに目を閉じた。目蓋の裏に、あの日の出来事を思い出す。それは鮮明に残っていた。
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