08
「―――な!」
唐突に明は、小さな体を抱き締めた。当然抵抗する冬だが、明は優しく、それでいて冬には振り解けないほどの力で抱き込める。
「何を!」
暫くもがいていたが、冬は離してくれないことを理解すると少しずつ肩の力を抜いた。それでも唐突な行動をした明の意図が量れずに困惑したままであったが。
「…何なの」
筋肉のついた、冬の腕とでは比べ物にならない立派な腕の中で小さく洩らす。その声を拾った明は腕の力を強めた。けれども冬が苦しいとは思わないほどの強さではあった。
「…ぃ………」
小さな、小さな声音ではあったけれど、至近距離である冬にはしっかり聞こえた。
―――"いなくなるかと思った"
「っ、」
小さく息を呑む。あながち間違いでは無かったからだ。
「いなくなるなよ…!」
悲痛にも聞こえるそれに、冬は目を閉じた。普段ならば甘受するはずもないのだが、今だけは温もりに縋っていたい気分であった。自分を求める存在に素直に甘える。
―――ねぇ、ユキ。ゆき、ユキ、雪。
僕はずるいよね。死にたいのに、雪と同じ場所にいきたいのに、死にたくないだなんて。なんて僕はずるいんだろうか。
温もりに縋ってしまう僕を、許してくれますか?求めてくれることに安堵する僕を、許してくれますか?
ユキ、雪。僕の、僕の大切な半身。
―――君こそが白雪姫
一粒の雫が、明の肩を濡らした。
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