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「これでも、頼りたいとは思っているんだ」
怖くて顔を見れない。俯いたままそう呟くと、トラが息を吐いた。
「…もういい」
呆れた声音に体を強ばらせる。ああ、呆れられてしまった。これで離れていかれてしまったならば、俺は…―――
「勝手にしろ。俺も勝手にお前を支えてやる」
バッと顔を上げると、不敵に笑うトラがそこに居た。なんて傲慢で、優しいんだろう。泣きそうになりながら笑う。
「…ありがと」
俺がそう言うと、トラは困ったように眦を下げた。そのままやんわりと抱き込まれる。すっぽりと腕の中に入ってしまうこの体型が憎い。
「二人の世界作らないでよーっ」
なんとも直視し難い構図から解放してくれたのは清水。可愛らしく頬を膨らませて俺にくっつきながらトラを睨む。トラもまた間に割って入られたのが気に食わないのか清水を睨んでいる。仲良くしろとは言わないが、俺がいないところでやってほしいものだ。
「そんなの望月がいるから仲が悪いんだっての」
「俺のせいか!?」
「確かに普段はそれほど仲が良いってわけでもないけど悪いってわけでもないな」
俺の呟きを拾って高橋が笑った。それに便乗して長谷川も俺を見てきた。それじゃあまるで諸悪の根源みたいじゃないか。人聞きの悪い。
「もち、悪くない。みんな、もちのこと好きなだけ」
佐々木が珍しく文を話したことに驚いて凝視する。内容もまた聞き捨てならないものである。
「俺も、もち、好き…」
ふわりと顔を綻ばせる佐々木にキュンとする。思わず「俺も」と言いそうになるのを寸前で呑み込んで髪を撫でた。
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