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「今は騙されてやる。だが次にお前が傷付けば俺は俺の思うようにするからな」


 あ、やっぱりバレてる。それでも譲ってくれたのは俺の気持ちを優先してくれるってことだ。それが俺にとって何よりも嬉しい。


「ああ。ありがとう」


 ふわりと頬を緩めれば、トラは溜息を吐いて俺の頭を掻き回した。その手が心地良くて目を細める。ここ最近はスキンシップが多く、あまり好きではないのは変わらないものの慣れてきた。男としてどうかとも思うが、周りが止めない限り何を言っても仕方が無いだろう。
 しかしそれにしても背が高くて美形な奴が多い。平凡(俺)への当てつけだろうか。なんとなく気に食わない。イケメンなんか滅べば良いと思う。心中で毒を吐いていると、またもや顎を掴まれて上を向かされた。ただ異なるのはその手付きが優しいことだ。やんわりと、しかし強引な手に従ってトラと目を合わせる。


「俺を見ろ、レイ」


 俺様上等の言い分に呆れる。うん、見てるから離してくれ。そうは思っても口には出さない。機嫌が下がり気味のトラに何を言っても無駄だろうしな。


「お前はいつも無茶をする」


 そんな事は無い、と言いかけたが口を噤む。相変わらず鋭い目が不意に寂しげに揺れたからだ。多分気のせいではない。


「何故、頼ろうとしない?レイの周りには、不本意だが慕う多くの者がいるだろう。それなのに一人で突っ走る」


 あー、耳に痛い話です。真っ直ぐに視線を受け止められなくて、申し訳程度に目を逸らす。


「それがお前の優しさであり、残酷さでもある」
「…残酷…」


 トラの言葉に妙に納得してしまった。確かに、俺は残酷だろう。心配を掛けないように、迷惑を掛けないようにと言いながら、逃げているだけかもしれない。
裏切られることが怖い。だから、信じきることも出来ない。人間不信に近いかもしれないな。原因、という言い方は嫌だが、理由は身内が美形であることだろうと思う。近付いてくる者はほとんどが身内目当てだったから、辟易してしまったのは必然だった。
 だけどこの学園内だとそういった裏のある者はいないから、自分では友人として接していると思っていたが、やはり一線を引いてしまっていたのだろうか。無意識の内であるから余計厄介だ。頼りたいと思う気持ちはある。クラスでの一件でそう強く願うようになった。だけど頼り方が分からないのだ。そうして曖昧に接しているうちに気分を害する奴も多く居る。そう、丁度今のトラのように。


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