53



「えー明日からぁ!?」
「…もち」
「うーん、そうだね。ならいっか」


 “もち”としか言っていないのに、清水は佐々木が言いたい事が分かったようだ。恐るべし。俺の微妙なあだ名だけでよく分かったな。とりあえず通訳が欲しい。


「望月と会えるから、だとよ」
「ぼ、僕だって会いたい…とか思ってない!」


 兎に角佐々木と長谷川を撫でておくか。何だこの可愛い生き物。


「………」
「嬉しい…とか思ってないんだからな」


 佐々木は目元を緩めて分かりにくいがどうやら嬉しいようだ。長谷川も頬を赤く染めて顔を背けたものの、手をどかせはしないのでまあよしとしよう。


「…トラ、その黒いオーラ仕舞えないのか」


 なんだか寒気がすると思ったらまたもやトラが黒いオーラを放出していた。機嫌の悪さが目に見えて分かる。


「レイ、こっちに来い」
「あー…。…分かったから。分かったからやめてくれ周りの奴らがビビってるから」


 不機嫌だと分かっているのに行くのはなぁ。と渋っていたらトラが横にあった机を殴り割った。どんな腕力だよ。仕方なく二人の頭から手を離しトラの傍に歩いていく。目前に迫ったところでトラが腕を伸ばし俺を捉えた。そのまま引き寄せられてバランスを崩し喧嘩で鍛えられた厚い胸板へとダイブした。

「ってぇ!」
「悪い」


 予想外のトラの行動に構えきれず、勢いがつきすぎて顔面を強打。元々平凡顔なのに更に凹んで特徴がなくなったらどうしてくれるんだ。恨めしげに見上げると、どうやら機嫌も少しは回復したようだ。


「悪いと思うならやめろよ」
「次からは優しく抱く」
「誤解するからその言い方はナシ」


 誤解させたきゃさせとけ、という低い呟きは聞こえなかったことにしよう。ツッコミ入れても面倒そうだしな。それにしても、俺を解放してくれやしないのか。男に抱きしめられても柔らかくない。


「っ」
「考え事などするな」


 ぐい、と顎を手で上に向けさせられた。無理やりに近いこの体勢は、それでも丁寧に扱ってくれているのか痛みは感じない。だがこの状況はいただけない。どうして誰も彼もが女のような扱いをするのだろう。チワワのような可愛い男なら良いが、俺みたいな平凡を捕まえて何がしたいのか。それに、俺はこんな扱いに嬉しく思う男ではないと分かっているのだろうか?


prev next

 



top
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -