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「じゃあ、美味しいお茶菓子を用意してください」
「え」


 珍しく驚いた顔をする湊さんにニヤリと笑ってみせる。


「紅茶だけじゃ、味気ないですしね?」


 俺がそう言うと湊さんは爆笑した。口を大きく開けて、ひぃひぃ言いながらお腹を抱えて。これには俺も驚いた。いつも上品というか、品位を損なわない湊さんの素を初めて見たのだから。


「くくっ、いいよ分かった。おもてなしさせていただくよ、怜那」
「!」
「本当に面白いよね、怜那ってば。私の想像を越すんだから」
「え、あの、名前…」
「ただの生徒じゃ勿体無いよね」


 それはそれはイイ笑顔で湊さんは俺の頬を手で包み込んだ。骨張ってはいるけど綺麗な手だなあ、なんて現実逃避を試みる。


「理事長と生徒の禁断の関係とかどうだい?」
「謹んでお断ります」
「遠慮しなくてもいいのに」


 してねぇよ、という言葉は湊さんが俺の頬にキスしたことによって掻き消された。


「ちょ」
「ふふ、赤くなって可愛いね」
「聖職者が何を」
「男は皆オオカミだよ?」
「湊さ、!」
「ふふ、隙有り」


 額にまで口付けられた俺はやる気をなくして脱力した。ああ、もうなんなのだろう。かわかわれているのか。


「まあ、とにかく頑張ってね補習」
「具体的にどんなことをするんですか?」
「全部任せるよ。そうだコレ」


 「はい」と軽く渡されたのはカード。真っ黒のそれに俺は首を傾げる。


「マスターキーって知ってる?」
「知ってますけど、まさかこれ」
「ううん、マスターキーではないよ」
「あ、そうなんですか」


 ほっとしたのも束の間。


「マスターキーより性能良いから」
「は!?」


 ちょ、まてまてまて。マスターキーより性能良いってどういうことだ!?


「会長や風紀委員長が持っているマスターキーは一般生徒が使う部屋や教室しか開けられないけど、このカードキーは他の全てのドアが開けられるんだよ」
「え」
「つまり、理事長室もね」
「あ」


 思わず声を出した俺に、ゆるりと湊さんは笑った。

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