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◇◇◇
「何故打ち上げ?というか屋上?」
「教室だとマリモが来るだろう」
俺が呟いた声に立花先生が笑って返してくる。あの後盛り上がりが収まらないまま、誰かが「打ち上げに行こう」と言い出して全員(俺以外)が賛同し、どうしてか屋上にお菓子やら飲み物やらを持って来ていた。これなら貰ったお菓子を持ってこれば良かったのに、と零す。
「あれは別口だろ」
「…そうか」
すかさず割って入ってくるクラスメイトの宮下に溜息をつく。
「何で先生もいるんですか」
「今更だろ」
隣に座る立花先生は飄々としている。教師がサボってどうする。
「大丈夫なんですか。授業は?」
「こんな面白い事を逃すはずねぇだろ。授業なんぞ糞食らえだ」
ああ、こういう人だった。聞いた俺が馬鹿だったのだろうか。
「まあいいんじゃない?たまにはこういうのも」
「厳」
心底楽しそうな笑みを浮かべた厳が立花先生と反対側の俺の隣に座る。そんな厳につられて俺も微笑んだ。
「皆テンション上がってるわねぇ」
「そうだな。そんなに嬉しいのか?」
「お前が傷ついていくのを見てられなかったからな」
「先生…」
悲しそうな、苦しそうな、それでいて寂しそうに顔を歪ませる立花先生。そして同じように厳もまた。
「もう一人にならないでね」
「分かった」
「教師軍も応援するからな。存分に逃げろ」
ポンポン、と軽く頭を叩いてくる先生を見上げる。言葉は無いが、俺のために掛け持ってくれたのだと理解する。
「ありがとうございます」
ふにゃりと顔を崩して笑う。今俺は情けない顔をしているのだろうが、頬が緩むのを止められない。
「おまっ…!!」
ボンっと音を立てて赤くなる立花先生。逸らされる顔に首を傾げる。そんなに見苦しかっただろうか。
「あーっ駄目じゃない、そんな顔見せちゃ!」
「…?悪い、見苦しかったか」
「そうじゃないけどさあ」
もごもごと口篭る厳に再び首を捻る。見苦しいわけじゃないのならそれはそれでいいのだが。ならば何故?
「望月ー、飲んでるか!」
「ジュースなのに?」
「細かいことは気にすんな!」
宮下にジュースを注がれながら苦笑する。俺の横で二人がホッと息を吐いていたなんて俺は知る由もない。
「一気飲み大会開催!!!」
「出場者求むーっ」
「僕するー」
「あ、俺も!」
「早飲みに自信あるぜー」
炭酸系の飲み物で争うクラスメイト数人に、その他のクラスメイトは爆笑しながら応援する。結局その日は一日中授業をサボって屋上で騒いでいた。
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