36 戦友へ



◇◇◇


「ありがとな」
「いいや、むしろこっちが礼を言うよ」
「あいつらテンション高くて悪かったな」


 俺と挙手してくれた二人で寮に荷物を置いて、その帰り道。二人の言葉にどうしてだろうか、と首を傾げた。


「なんだかんだ言っても俺らだって心配してたんだよ」
「望月ばっか傷作ってさ。しかも学校に来なくなるし?」
「クラス全員で望月の代わりにやり返してやろうか、とか企んでたんだけどな」


 目を丸くする俺に「立花先生に止められてな」と二人は呑気に笑っている。とりあえず、先生ナイス。止めてくれて本当に感謝する。恐らく止めなければ実行していただろう。自棄に俺のクラスは団結力だけずば抜けて良いから。


「おお、嫌そうな顔してるな」
「いや、俺なんかのために手を汚す必要は無いだろう?」
「「お前なあ」」


 二人とも同時にガシガシと頭を掻いた。照れたように顔を赤くして。


「どうかしたか?」
「いいや、望月はそのままで良いと思うな」
「?」
「やっぱ望月は望月だったな」
「意味分からないんだけども」


 クツクツと笑う二人に俺だけが一人ポツンと取り残される。どうしてだろう、前にもこんな事があったような。


「望月はさ、優しいよなー」
「ああ、優しい」
「おい」


 唐突に言われて戸惑う。どう答えたらいいものか。答えあぐねる。目の前の二人はにこやかに言い放つものだから、答えに窮するのも無理はない。


「偽善かもしれないのにか?」
「「望月はそんなことしない」」


 きっぱりと断言されて俺は困り果てる。どうして、そんなに断言出来るんだ。


「どうしてって顔してるな」
「望月分かりやすいよな、時々」
「まあ大体は分からんけどなー」
「…俺って分かりやすいのか」
「まあまあ?」
「大事なところはちゃんと伝えてくれるな。その表情で、言葉で」
「「俺たちの欲しいものをくれる」」


 二人があまりにも柔らかく笑うものだから、俺は何も言えなくなった。


「俺たちはさ、望月のこと信頼してるんだよ」
「そうそう。案外しっかり者だし考えもハッキリしてるしな」
「ただ、一人で突っ走る癖がある」
「…それは」
「一人で突っ走る」


 よく耳にした言葉に俺は口を閉じた。両親に、姉に、幼馴染に、それはずっと言われてきた。

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