32 級友と餌付け
なんだかんだ言いつつも、一週間が経った。どうしても部屋でじっとしていられなかった俺は、何度厳に怒られたか数え切れない。酷く窮屈だったこの一週間も終わり今日はようやく登校の許可が下りた。久しぶりに制服の袖に腕を通しながら思い出す。
「そういえば真那に仕返ししろって言われたけど」
どうしたもんかな、と呟く。仕返しなんて別にどうでもいいのだけど。それで許してくれる姉じゃない。仕返しをしなければ、どこからともなく情報を入手してきた真那が学園に乗り込んでくるだろう。そして恐らく「社会的抹殺」を目論むだろう。
我が姉ながらえげつない。特に俺に関しては容赦しない人だから余計に。それは幼馴染の和子にも言えることで。
「どうするべきだろうか」
仕返しなんて面倒くさい。本音はそうだが、しかしやらなければいけないのだ。やりたくない。だがやらなければいけない。ひたすら悪循環なループに俺は頭を抱えた。
「怜ちゃん?遅刻するわよ」
厳の声にハっとして時計を見る。ヤバい。
「今出る!」
部屋のドアを開ければニッコリと笑む厳がいた。
「おはよう、怜ちゃん」
「おはよ」
「朝ご飯は?」
「……今から作る」
無言の圧力に負けて溜息をつく。ああ、完璧に遅刻だな。
「悪い。厳も遅刻するな」
「別に良いわよ。だって怜ちゃんのご飯の方が大事!」
「それは駄目だろ」
俺は思わず呆れてしまった。嬉しいことには嬉しいが、天秤にかけるものが違うだろう。
「気にしない気にしない」
ニコニコと笑う厳に、俺も気が抜けて笑う。その後簡単な朝食を二人で食べて足早に教室へと向かった。
◇◇◇
―――ガラっ
「あ、望月来たぞ!」
「本当だ!久しぶりー」
「体、大丈夫なの?」
「一応一週間分のノート、コピーしといたよ」
教室に入れば次々にかかる声に、俺は一人一人対応した。案外俺のクラスは仲が良い。KYに目を付けられるのは俺だけでいい、と言っておいたのでKYがいる時には俺に話しかけてくることはない。クラスメイトは全員俺の気持ちを尊重してくれた。
ちなみに今はKYもその取り巻きもいない。よくよく聞くと、予想通り生徒会室らしい。
「マリモがいないだけで学園は平和だね」
「…マリモ?」
「あれだよ。KYの新しいあだ名」
「っぶは!!」
ちょ、マリモって!!ツボにハマりすぎだろっ!口を両手で押さえながらチラリと横を見ると、厳も肩を震わせて笑っていた。いやまぁそうなるよな。
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