31
残された俺は、ザァ…と草木を揺らす強い風に我に返った。そっと唇をなぞり赤面する。
「キス、された…?」
疑問系になるのも無理はないと思う。だって一瞬すぎて分からなかったんだ。触れたのだろうか。いや、触れたのだろう。微かに鼻腔をくすぐった雷先輩の香りに、そう認めざるを得なかった。だけれど。
「…嫌じゃなかったな」
それは無意識だからこそ心の内にある本音であって。俺はとうとうこの学園に染まってしまったのか、と凹んだ。だが雷先輩だったから、という考えが過り慌てて思考の外に追いやった。―――そんなの。
「俺が先輩を好きみたいじゃないか」
考えを振り切るようにベンチから立ち上がる。火照った頬を気にしないように寮へと足を踏みしめた。
厳に気づかれぬように部屋へ戻り、ベッドへとダイブする。ふと窓から月が見えて、意味もなくぼんやりとそれを見つめた。どことなく寂しいような、でも温かいようなそんな気がして不思議な気分になる。ただ見つめるだけのその行為にどこか意味があるようなそんな気になった。穏やかな気持ちで一人を思い浮かべるなんて俺には初めての経験で戸惑ったが、それでも嫌ではなかった。
まるで恋する乙女のようだ、だなんてつまらないことを考えながら、そうして夜は明けた。
▼
top