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「お前が温めてくれるのか?」


 ニヤリ、と効果音が聞こえそうなあくどい笑みを浮かべる。俺はパチリと目を瞬かせて考え込む。温める、とはどういう意味だろうか。
 …抱きしめればいいのか?そう考え付いた俺は珍しく躊躇いもせず雷先輩を抱き締めた。


「怜那」
「はい?」
「お前はこれが温める意味だと思っているのか」
「違うんですか?」


 キョトリと聞き返せば、クツクツと耳元で笑われた。


「違う。だがこういうのも悪くない」


 腰に腕を回される。しかし予想外に優しく抱き込まれるものだから、意図せずとも頬に朱が走った。


「せ、先輩?」


 上擦る俺の声に返事は無かった。そのかわりに少し強くなった腕の力に顔を赤くする。抵抗を試みるが力の差は歴然。諦めて力を抜くも、以前との状況の違いに少し気恥ずかしく思う。じわりと熱が溶け合う。人肌になんとなしに落ち着かされてそっと目を閉じた。


「怜那」
「?」


 ―――チュ。
 触れるか触れないか、という曖昧な距離で唇が重なった。一瞬すぎて俺はキョトリと目を瞬かせる。そんな俺に雷先輩は優しく微笑んで頭を撫でてきた。


「今日はもう遅い。体も冷えるからもう帰れ」


 命令口調であるはずなのに、優しく聞こえる。それは恐らくいつもより声音が柔らかいからだろう。


「あ、はい」


 素直に頷いた俺にまた優しく笑った雷先輩はベンチから立ち上がった。その様子をただボーっと見る。俺の髪を一撫でして雷先輩は暗闇に消えていった。

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