28



「手を引いてくれるのか?」
『怜那の頼みごとだもーん。引かなきゃ格好悪いでしょお』
『滅多に頼みごとしてくれないんだもの。断れるわけがないわ』


 電話越しでも呆れるように笑う二人の姿が脳裏に浮かぶ。真那と和子の優しさに自然と頬が緩んだ。


「ありがと」
『今、怜那笑ったでしょっ!』
『ああっ!!絶対可愛かった!いや、可愛い!!』
『なんで直接見れないのかしらっ』
『もったいなーいっ!!』


 耳元でキャイキャイ騒ぐ二人に嫌な予感がして反射的に電源ボタンを押した。相変わらずあの二人のツボが分からない。恐らく切っていなかったら「会いに行く」とか言っていただろう。切って正解だった。
 久しぶりに聞けた姉と幼馴染の声に、内容はともかく癒された俺はクスリと笑ってまた眠気の波に乗りかかった。


◆◆◆


真那 side


「あー、切れたぁ」
「切ったわね」


 ツーツー、と機械的な音を発する携帯を二人して見つめる。


「会いたいなぁ」
「そうね」


 和子がポツリと呟いた言葉に賛同する。いつも冷静で、どこか人と一線をおいてしまう愛しい子。時々見せるふにゃりと崩れた顔で笑う彼が愛しくて、会いたい。


「あの子は他人を傷つける前に自分を傷つけてしまう節があるから」
「会いたいなぁ。会って抱きしめてあげたい」


 興味がないことなんて人間なら必ずしもあるのに。「興味がない」と言った声は、きっと本人の意図に関係なく震えていた。それほどにまで自分で自分を傷つけて。他人に自分を傷つけられて。今にも泣きそうな声を零した彼を今すぐにでも抱きしめてあげたい。けれど出来ないこの距離がもどかしい。
ねぇ怜那。今、貴方の周りに自分を晒せる人はいるのかしら。目の前で泣ける人はいるのかしら。否、あの子は私の前でさえ泣かない、泣けない子だから。せめて、せめてそれに気づいてあげて。気にかけてあげてほしい。


「どうかあの子に気づいて」
「真那ちゃん…」


 和子と体を寄せ合う。あの学園で強くなってほしい、と願うのは私の我儘なのだろうか。あえて厳しい環境に放り込んだのだけれど。


「怜那には幸せになってほしいねぇ」
「そうね」


 どうか、どうか幸せに。窓から覗く青い空に、神様なんて信じているわけもないけれどそう祈った。

prev next

 



top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -