26 腐女子サマ



 はい、現在絶賛厳に怒られ中です。筋トレをしていたのがバレたのだ。


「駄目って言ったよな?」
「…はい」
「森永先生にも言われたはずだよな?」
「…はい」


 怖い。怒った美人は怖い。


「反省してんのか!?」
「反省してます…」


 「絶対安静」を言い渡されてから三日経った。相変わらず痣の色は酷いが、痛みはあまり無い(触らなければ、の話だが)。三日間はそれこそ熱に苛まれて動けなかったのだが、今は微熱があるだけで意識もしっかりしている。
 だから筋トレをしても平気だろうと自室でやっていたのだが、運悪く厳に見られてしまったということだ。


「お願いだから治るまで大人しくしてて」
「…了解」
「もう、本当に分かってるの?」
「分かった、分かったから」


 不安だわ、とぶちぶち言う厳を笑顔で黙らせて足を崩した。正座をさせられていたからか、少し痺れている。俺は手を頭上に組んで伸ばした。パキっとイイ音が鳴る。ついでに二の腕を掴んだ。


「それほど落ちてないな」


 筋肉を確かめたあと、ふと思い出して携帯を手に取った。三日ほど放置していたその画面に浮かび上がった数字に顔が引きつる。


「着信、受信数3ケタって」


 予想は出来る。否、むしろ確信している。―――全て姉と幼馴染からだ、と。
とりあえずメール受信箱の一番上にあったそれに返信を打つ。「現在寮にて療養中」とだけ書いて送信する。
 ぼふりと携帯を持ったままベッドに突っ伏した。意味もなく足をバタバタさせていると、手にした携帯が振動を伝えた。電話のようだ。


「もしもし」
『怜那っ!?やっとメールしてきたと思ったら療養中ってどういう事!!?』


 キンキンとした声に思わず手を遠ざけた。


「真那、落ち着いて」
『落ち着けるわけがないでしょ!?怜那はなんでそんなに冷静なの』


 下がった声のトーンに相手が落ち着いたことを確認する。紹介しようか。我が姉、望月真那だ。21歳でフランスの公爵の血族と婚約中。
 どこでそんな人引っ掛けてきたんだ、と聞きたいが此処はスルー。真那は俺と違って平凡からかけ離れた超絶美人だから(これ以上は察してくれないと俺が悲しくなるから言わないが)。よくは知らないが、大学の時にフランスに海外旅行に行ったら「言い寄られたby真那」らしい。せめて見初められた、とか言ってほしかった。
 ちなみに、俺が「真那」と呼んでいるのは強いられたからだ。我が姉ながら何を考えているのか分からない。

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