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「怜那はそれでいいかもしれないけど、俺は許せない」


 静かな怒りを秘めた声音にゾクリと背筋に冷たいものが走った。


「…厳」
「怜那は優しすぎる」
「厳」


 強めて名前を呼べば、ピタリと動きが止まった。美しい顔が無表情であるから、迫力は恐ろしいほどに。人形のような顔に一つ、怒りに燃える瞳だけが意味を成している。


「厳、俺は優しくなんてない」
「怜那?」


 訝しげに見てくる厳に苦笑を漏らす。


「俺はもう彼らに何も興味が無いからな」


 そう、「何も」ないんだ。感情も全て捨ててしまった。


「俺は、自分勝手な人間なんだ」


 ふわりと厳の香りが俺を包む。数秒経ってようやく抱き込まれたのだと気づいた。


「厳?」


 厳の顔を上げさせると。


「何で泣きそうな顔してるんだ」
「―――く」
「え?」


 声が小さくて聞き取れなかった。耳を傾けるようにして聞き入れる体制をとる。


「怜那が泣かないから、俺が泣く」


 ポロリと目尻から溢れ出た涙が俺を濡らす。俺は何も言えないまま顔を俯けた。そんな俺を、厳は咎めることもせずに腕の力を強めた。
 その優しさに甘えて俺は身を委ねる。温かさに酷く安堵を覚えた俺は、いつしか眠りに落ちていた。


◆◆◆


厳side


 小さな規則正しい寝息に怜那の顔を覗きこんだ。


「寝たか」


 無表情なその寝顔に愛しさが募る。頭に過るのは泣きそうな顔で苦笑する怜那。


「他人のせいで泣きそうになってる人が、優しくないわけがない」


 どんな時でも人の前で泣かない、この愛しい人。どれだけ心配させれば気が済むのだろうか。いつだって他人のために行動する彼がいじらしい。だけど、そんな怜那であるからこそ、俺は。怜那が怜那であるからこそ、惹かれたんだ。
 無垢なまま眠る怜那の額にそっと唇を落とす。


「いつか」


 いつか、俺の前で泣けるようになるまで信用されるように。密かに決意した。


厳side end


◆◆◆

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