23 熱



◇◇◇


「怜ちゃん?」
「あ、ただいま」
「おかえり。じゃなくって、どうかしたの?」


 厳が俺と雷先輩を見比べて眉を寄せた。なんとなく理由が分かったのだろう。何も言わず厳は道を開けた。俺はソファに下ろしてもらって、厳と目を合わせた。


「…何が、あったの」


 雷先輩がいるからだろうか。男言葉になりそうなのを押し留めて静かな声で聞いてきた。


「あのな」
「怜那」


 雷先輩に話すのを遮られて首を傾げる。


「傷に響くだろう。限界だろうから横になっておけ」
「え、でも」
「私は平気。抱き上げられる程の怪我なんでしょ?」


 厳の鋭い声に俺は目を見開いた。それからすぐに苦い笑みを浮かべてありがとう、と述べた。やはり聡いな、と思いながらお言葉に甘えて寝室へと向かう。
 痛みを堪えながら制服を脱ぎハンガーにかけてボフリとベッドに突っ伏す。あまり自覚はなかったのだが雷先輩が言う通り身体は限界だったらしく、すぐに眠りに落ちた。


◇◇◇


「風紀委員長、怜那の容態は?」
「骨折寸前の打撲だそうだ。熱が出るだろうから一週間は安静に、だと。それに湿布と痛み止めの薬が入ってる。薬は一日三回、食後に二粒。飲み忘れると痛みで魘されるらしい」


 雷は持っていた袋を放り投げた。厳はそれを軽くキャッチして礼を述べる。


「一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ」
「怜那とはいつ知り合ったんです?」


 すぅ、と細められた目に雷が映る。怜那といる時とは真逆に無に戻る。それは厳も雷も、だ。


「今日だ」
「そうですか」


 厳は複雑そうな表情でそう答えた。


「またライバルを増やして」


 ボソリと呟いたソレは雷の耳に届いたらしい。


「その方が燃えるだろう?」
「怜那は渡しません」
「お前にアイツは惜しい」


 雷はそう言い残すと踵を返した。残された厳は小さく舌打ちをして息を吐いた。


「どうして厄介な人に目をつけられるんだ」


 仕方が無いといえばそれまでだ。しかし厳は言わないと気が済まなかった。

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