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「それで怪我したところは?」
「あ、腹です」
「…また?」


 また、というのは昼に来た時も腹を手当てしてもらったからなのだが。


「もしかして同じところ?」
「はい」


 俺が頷くと、森永先生は渋い顔をしてシャツを捲り上げる。


「せ、先生?」


 俺の腹を見た瞬間物凄い顔になった。横からヒョコリと顔を出した雷先輩も同じく恐い顔になる。


「これは酷い」
「ああ」


 二人して頷くので、そんなに酷いのだろうかと自分の腹に目線を下げる。するとそこには自分でも目を逸らしたくなるほどの痣が広がっていた。赤黒く変色したソレは人間の皮膚とは到底思えない。


「骨折してないか確認するから」


 森永先生は奥にあるドアを指差す。「歩けるか?」と雷先輩に問われるが、無理そうなので肩を貸してもらう。


「っ」


 なんというか、壮絶な痛みに唇を噛んで耐える。病は気からと言うが怪我も気からだな。と内心は冷静になりながら足を踏みしめる。
 見たら痛いというか自覚した途端痛みは増すのだから不思議である。なんとかレントゲン室(何でそんなものが保健室にあるのか、という愚問は聞かないでほしい)に辿り着いた俺は息を吐く。
 腹は厄介だ。息をするのも痛いしそれこそ喋るのもかなり辛い。笑えば悶絶するだろうことが目に見えている。もしかすると食事の時でさえ痛いのだろうか。そうだとするととてつもなく嫌だな、と心の中で溜息をついた。


「はい、もういいよ。立てる?」
「あー、ちょっと無理ですね」
「俺が持ち上げる」


 俺の返事を待たずに雷先輩は横抱きにした。


「ぅお!?」


 慌てて雷先輩の首に腕を回してバランスをとる。なんだか最近このパターンが多い気がする。男としてのプライドをどうしてこの男はこうも簡単に壊してしまうのだろう。状況が状況なだけに仕方が無いのだが、やはりどこか嫌な俺はバレないように溜息を吐いた。
 誰も彼もヒョイヒョイ持ち上げやがって。俺は小さい訳ではない。そこは断固として譲れない。


「平気か?」


 そっと椅子におろされて俺は安堵の息をつく。


「大丈夫です」


 心配そうに見てくる雷先輩に笑いかけた。まるで壊れ物を扱うかのような触れ方に、なんとなく気恥ずかしく感じる。そんな感情から逃れるように森永先生に向き直った。

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