19



「ん?ああ、初めましてだな。同級生だし呼び捨てで構わねぇよ」


 望月も災難だったな、と彼は爽やかに笑う。それは噂通りの人物像で、俺もつられて笑った。


「望月って笑うと可愛いのな」


 根岸は驚いたようにじっと俺を見てきた。


「俺は至って平凡だぞ?」
「中身は男前、か。お前も大変だな」


 クシャリと髪を撫でられ、俺は意味が分からなくて眉を寄せた。


「根岸」


 不機嫌な声音に慌てて顔を上げると、案の定不機嫌そうな雷先輩がいた。


「はいはい、すみませんでしたって。ほら、早く保健室に行ったらどうです?」


 根岸、俺はお前を尊敬するよ。と心中で呟いてみる。耳元で舌打ちが聞こえたかと思うと身体が揺れた。まあ歩く振動が伝わっただけなのだが。
 横抱き(お姫様抱っこなんて言わせない)に慣れていない俺は(いや慣れてどうする)、慌てて雷先輩の首に手を回した。そんな俺に構わず歩く雷先輩。だけどそこまでいうほど振動は伝わってこない。雷先輩なりに俺を優しく扱ってくれているようだ。
 俺が女だったら絶対惚れてるな。なんて馬鹿なことを考えながら、雷先輩に身をまかせるように目を閉じた。そんな俺を満足そうな笑みを浮かべた雷先輩が見つめていたことなんて知らない。


「怜那君!?どうしたの」


 保健室に着いた俺と雷先輩を見比べて森永先生は驚いた顔をする。まぁ、そりゃそうだろうな。俺だってこんな状況になっていることにまだ頭が追いつかないのだ。第三者から見ればそれ以上に意味が分からないだろう。


「手当てをしてほしい」
「…椅子に座って」


 雷先輩の言葉に苦い顔をした森永先生に促され、振動が伝わらないようゆっくり俺を座らせてくれた。椅子に座らせてくれたその人を見上げて感謝の意を示す。


「ありがとうございました、先輩」
「別にいい。早く手当てしてもらえ」
「はい」


 森永先生に向き直るとやはり再び驚いた顔をしていた。


「怜那君ってばまた大物を釣ってきて」


 はぁ、と大袈裟に溜息をつかれる。大物って言えば大物だな、と雷先輩をチラリと見れば雷先輩もこちらを見ていたようでカチリと視線が合わさった。
 元々鋭い目を逸らせずにどうしようと悩んでヘラリと笑っておく。雷先輩はそんな俺の頭をポンポンと撫でて手を離した。それと同時に森永先生へと目線を戻す。そこには呆れたような、諦めたような表情が浮かんでいた。


「森永先生?」
「怜那君だしなあ」


深く息を吐かれて、どうしようもない俺は苦笑を返す。

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