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「何故、って顔してるな」


 抵抗する暇もなく、顎を持たれ上を向かされた。それに抗議するように睨めば、クツクツと喉の奥で笑われる。


「心当たりは、ないか?」


 そう問われて考える。


「厳、ですか」


 美形である厳と一緒にいるならば、風紀の耳にも入るだろうと言えば、目前の猛獣は獰猛な笑みを深めた。


 「半分正解だな。もう半分は親衛隊との友人関係」


 そこまで言い、言葉を切った。


「何故、狂った連中と友人になどなれる」


 心底、静かな声で聞かれる。確かに他の目から見ればその通りなのだろう。未遂だとはいえ、暴行しようとした彼らと何故仲良く出来るのだ、と。直接言われはしないが周りの目はそう物語っている。


「…彼らは、確かに狂っているのかもしれません」


 たとえ此処が閉鎖された学園だったとしても、社会に出れば嫌でも気づく。此処が特殊な環境で、しかも奇異な目で見られるのだということ。「狂った」と言う風紀委員長は此処にいて尚、悪習に染まっていないのだろう。


「へえ?」


 鋭い目で先を促され、静かに言葉を紡ぐ。


「でも、誰だってそうです。恋をしたら誰しもが狂う」


 俺は恋などしたことがないからよく分からないのだけれど。捕食者の彼をじっと見据える。


「それは、本当に恋であると思っているのか」
「確かに、恋に恋をしているのかもしれません」


 疑念は拭えない。俺だってそう思っていたのだ。


「俺も、そう考えていました」


 けど。でも。


「けれど、ちゃんと愛し合っている人も確かにいました」


 そう。そうなんだ。
 ちゃんと恋をして、偽物なんかじゃない人たちも此処にはいる。幸せそうにはにかむ彼らを見たら、何も言えなかった。仕方が無い、と。ただ好きになった人が同性だったのだ、と受け入れることが出来たのだ。


「現実を受け入れようと思ってみたんです。中には本当の恋をしている人もいるのだと、彼らの話を聞いていたらそう思えたんです」


 好きだからこそ暴走もしてしまうのだ。それを知ってしまったら、彼らは可愛らしく俺の目に映る。なんて健気なのだろうと心を打たれた。


「俺には小動物にしか見えません」


 可愛いですし、と続ける。ちょこまか動き回る友人たちを思い浮かべて自然と頬が緩んだ。

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