12 捕食者と非捕食者



◇◇◇


「ん、きもちいい」


 俺は今、裏庭のベンチに転がっている。裏庭には滅多に人が来ない。というより、知っている生徒がほとんどいないのだ。
前々から狙っていたそこは、やはりとても綺麗な場所だった。
 季節の花が咲き乱れていて、男の俺でも思わず感嘆の息を漏らすほどには。こんなに、美しい庭は見たことがない。花の香りに誘われてベンチに寝転がってみれば、やはりなんというか、恐ろしく居心地が良い。
 最近はイライラすることが多かったので、精神的にも疲れていたのか、早くも眠気が襲ってくる。それに抗う気もない俺は早々に意識を手放したのだった。


◇◇◇


「………?」


 それから暫く経ったとき、不意に誰かに頭を撫でられた。スキンシップを好まない俺にとって、その行為は僅かに不快感を引き起こす。触るな、という意味で身動ぎするも、止まる気配のないソレに苛立ちつつ目を開けた。


「起きたのか」


 腰に響く低い声に無意識のうちに眉を潜めながら顔を上げた。俺を撫でていたらしい人物を視界にいれた瞬間、見事に固まった。男前、としか言い表せない整った顔立ち。切れ長の目をさらに細められたそれに、後ずさる。


「風紀、委員長」


 その男はこの学園にいるのなら知らない者はいないだろう、風紀委員長その人だった。俺の言葉にゆるりと口の端を持ち上げる。その姿はいかにも「百獣の王」のようだ。彼が捕食者ならば、俺はその餌だろうか。

「よお、望月怜那」


 歪んだ口から発せられたのは、紛れも無く俺の名前。

何故、知っている。
何故、知られている。

 本能的に危険を感じ、更に後ずさろうとするも、目の前の猛獣に腕を掴まれ叶わなかった。ならばせめてもと、ギロリと風紀委員長を見据える。


「そう警戒すんな。取って喰おうとは考えていない」


 ギラギラした野生の目でそう言われても説得力はまるでない。だが、直感で嘘はつかないだろうと思った俺は、少しだけ身体の力を抜いた。


「俺がお前を知っているのはお前が有名人だからだ」


 有名人、か。もしかしてKYに気に入られたからだろうか。


「今お前が考えてる理由じゃない。お前は入学当時から有名だった」


 「入学当初」。その言葉に眉を寄せる。俺は出来るだけ平和に、平凡にと過ごしてきたはずだ。目立っていた記憶なんてない。

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