09



 なんだかんだいいつつ厳も良いとこの坊ちゃんなので、口に合うかどうか不安だったがそれは杞憂に終わった。なんでも「食堂より美味しいわ!」とのことだ。口にした第一声がそれだったので恐らく本音だったんだろう。
 それからは俺も安心して作っている。それが切欠だったのかは曖昧だが、以降俺の部屋に住み着いている。二人で使っても十分この部屋は広いから別に良いんだけどな。


「ご馳走様でしたあ」


 パンっと手を合わせる厳を見て我に返る。俺はまだ食べ終えておらず、急いで口に運んだ。


「お粗末様でした」
「お皿洗い私がするね」
「サンキュ」


 いつの間にかこれが習慣になった。料理は俺が作り、後片付けは厳が担当だ。これも厳に「怜ちゃんに作ってもらってるんだから、後片付けくらいは私にやらせて?」と押し切られたからなのだけれど。
 俺ってもしかしなくとも押しに弱かったりするのだろうか。いやいや、厳の押しが強いのだろう。別に流されやすいわけでもないしな。そんなことをつらつらと考えていると、厳が俺の横に腰かけた。


「ねぇ怜ちゃん」
「何だ?」
「編入生が来るって、厄介な感じなの?」


 相変わらず鋭いな、と厳を見やる。確かに厄介事でなければ立花先生も俺を呼び出したりしない。そのことを知った上での言葉なのだろう。


「宇宙人級のKYらしい。理事長が言葉が通じないって嘆いてた」
「うっわ」


 心底嫌そうな顔をする厳に、俺もそんな表情をしているのだろうなと苦笑する。


「それに呆れ果てた親が理事長に押し付けたんだとさ」
「親に捨てられたとか人生終わってるじゃない」
「俺もそう思う」
「「………」」


 二人で顔を見合わせ、同時に溜息を吐いた


「理事長も拒否すればいいのにねぇ」
「まったくだ。だが節々に愚痴が書いてあるから一応断ったんだとは思う」
「最悪」
「押し切られたんだろうな、文字通り」
 遠い目をしだした厳につられて俺も遠い目をする。


「「(一生来なければいいのに)」」


 この時心中で呟いた声が綺麗にハモったことは誰も知らない。

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