06



「怜ちゃん?」
「何?」


 嬉しいような、困ったような声音に俺は厳の肩に顔を埋めたまま聞き返した。厳は香水が嫌いらしく、何も付けていない。前に不思議に思って聞いてみたけれど、「香水は体臭を隠すためでしょ。そんなのいらないし」ということらしい。俺も香水は少し苦手だからそっちの方が良いんだけど。
 そんな訳で俺は今石鹸の香りと厳の香りに癒されている。厳っていつも良い匂いがするんだよなあ。


「―――けど、って怜ちゃん聞いてる!?」
「わっ。ご、ごめん聞いてなかった」


 耳元で大きな声を出されたことで反射的に身体を揺らす。


「だから、私以外にはこういうのしちゃ駄目よ」


 こういうの、ってこの状態のことだろうか。


「俺はスキンシップ苦手だから大丈夫だ。厳は別だけど」


 厳は高校に入学してから出来た初めての友人だ(理事長は置いといて、だけど)。いつもスキンシップが激しいから慣れてしまった。
 そう思って言えば、ピタリと厳が止まった気配がした。不思議に思って顔を上げようとすると、厳に腕で押さえ込まれた。後頭部を手を押さえられ、胸板に鼻がつく。


「厳?」
「こっち見んな」


 もごもごと名前を呼べば、男の低い声でそう言われた。ちらりと目だけで上を見れば赤い耳が見えて、思わず笑ってしまう。


「何だよ」
「いや、別に」


 立花先生といい、厳といい、俺の周りには照れ屋が多いなとまた笑う。


「大人しくしてろ」
「はいはい」


 あと少しくらいならいいか、と俺は身体の力を抜いた。

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