「おーい」
・・・・・
「隊長ー?」
・・・・・
「・・・マールコちゃん?」
・・・・・
返事がない、これはまるで死んでいるかのようだ。
・・・・いや、生きてるんだけどな。
おやすみ、愛しき人よ
何度このやりとりをしただろうか
ふぅ、と溜息を吐いて視線を少し下へ向けると向かい合わせになる様に俺を膝に乗せて離そうとしない俺の愛しい恋人の姿。
俺が医務室で事務処理をしてたら扉をバンッ!と勢いよく開けツカツカと入り込んできた奴は俺の手を引いて部屋にあるソファにドサっと腰掛けると俺を力強く引き寄せてきて今の状態に至るわけだ。
白ひげの一番隊、そして隊長でもあるマルコはいつも忙しい。
数ある部隊の総指揮を任され船内の仕事も管理している彼は船長のNo.2というポジションにいて船内を見回りクルー達に指示を飛ばしている姿は毎日見て取れる。
一方の俺はと言うと一応船医という役職についているが一応1番隊の戦闘員も兼ねている。面倒だから戦いたくねえのが本音なんだが隊長直々の命令だ、断れるわけないだろ?
ってなわけで二足の草鞋を踏みつつこの船にいるわけだ。
俺は大体医務室にいて怪我こさえてきた野郎のお世話したりナースの様子を確認したり、そんな日々を送っているわけなんだが
ここの所本当に忙しかった
本ッッ当に忙しかった
白ひげの名を出せば普通の船ならば震え上がる所だが怖いもの知らずの馬鹿か、本当に知らないだけか、どちらにせよ馬鹿な海賊共が俺達の船に奇襲を仕掛けてきたり、大時化に当たったり。
ひと段落したかと思えば俺が偵察に出たり互いに新人の面倒を見たり・・・なんと慌ただしい毎日だったか
事務的な用件で話したりする事以外であいつとゆっくり過ごしたのはざっくり考えるともう半年近く前になるんじゃないか。
何度も言うが本当に忙しかった。
そんなこんなで中々会えなかった訳だからこうやって2人になれたのはとても嬉しいのだが
いかんせんマルコが俺の胸元に顔を埋めてたまま黙りこくってるからこの状態は変わらず平行線のままだ。
「1番隊の隊長であろうお前さんが、珍しく甘えただなぁ」
なぁマルコ?と子供に語りかけるような優しい声で目の前にある金色の髪の毛を優しく撫でながら話しかけるとじぃっと動かなかった奴がなにやらボソボソと言葉を発し始めた
「・・・半年」
「ん?」
「半年、お前さんと一緒に過ごせなかったのがここまでキツいものだとはねぃ・・・」
「おー、互いに忙しかったもんな。お疲れ様、マルコ。調子はどうだ?ちゃんと寝れてるか?」
金色に染まった髪の毛を梳きながら顔を見せろと言うとゆるりと胸元から顔を離してこちらに視線を絡めてくる
「・・・まぁな」
「何がまぁな、だ。くまが出来てんじゃねぇか。どーせお前の事だから徹夜してんだろ?仕事も落ち着いてきたみてぇだし少しくらいここで横になった方がいい。」
目元のクマをもむように親指でゆるく押していると嫌だの一言。
「マリアと久々に過ごせんだ、いつまた忙しくなるのかわからんのに寝てられるかってんだぃ」
「子供じゃねぇんだからだだこねんじゃねぇの」
「聞こえねぇなァ」
ふん、と鼻息荒く視線を背けるその姿は子供が自分は悪くないのに叱られて納得いかない様そのものでいい年した大人がなんて顔だと少しだけ笑いがこみ上げてくる
・・・・ったくしょうがねぇ隊長様だよ
俺がマルコに甘ちゃんで、必ず先に折れるのを奴は知っている。
だから俺の小言なんか知らん顔。それにいうこと聞かないマルコに決して腹が立つ事がない俺も本当にマルコに甘いな、って改めて思うんだ。
こういう事は先に惚れた方の負けというのが相場で決まってる
「・・・じゃあさ、マルコ?」
「あ?」
「これは恋人としてのお願いなんだが・・・」
「おーいマリアー。いるか・・・ってあれま」
医務室にマリアを訪ねて中に入ってきたのはリーゼントが特徴的な4番隊隊長のサッチだ。
「あれーサッチ。どした?急用か?」
「いやな、厨房の薬品箱いろいろ切れそうだからお前さんの書いてくれたリストを借りに来たんだけどもよ・・・そんな事よりマルコ、や〜っと寝たんだな。手間かけさせやがって」
サッチの話によるとここのところずっと不在だったこともありたまった書類を処理すべく隊長室にこもりっきりで睡眠時間を削りまくって仕事をしていたらしい。そんな事もありサッチも口すっぱく寝ろと言ってたそうなのだがはいはい、と流されていたとか。
「なんでもな、早く片して誰かさんと一緒に過ごしたいんだとよ。」
愛されてんなぁ〜お前。と企んだような、ニヤリとした笑みを浮かべてこちらを覗いてくるサッチも人が悪い。うっせぇよと悪態を吐いて目の前に眠っているマルコへ視線を移す。どうやら自分が知らない所で時間を作ろうと奮闘していたというのがわかり一層愛おしさがこみ上げてきてつい顔が緩みニヤニヤしてしまう。
その姿を見てサッチが羨ましい!と肘でつついてきたがこの上なく鬱陶しい、無視だ、無視!
「やかましいぞサッチ、こいつやっと寝た所なんだ。騒ぎたいなら俺が蹴っ飛ばして部屋から出してもいいんだが・・・」
「そんな照れなくてもいいじゃねぇのよ、女房殿は怖ぇなぁ。仕方ねぇ、お邪魔虫な俺は退散しますよ〜っと」
「後でリストは届けにいくな。」
了解、と伝えるように片手を上げて部屋を出てゆくサッチにありがとなと告げる。
にしても、だ。
気持ち良さそうに眠るマルコの頬を撫でながら先程のマルコとのやり取りを思い出す。
俺のお願いに眠たげな目を見開きぽかんとしたその姿は何度思い出しても面白くてクスっときてしまう
さぁ、彼が目を覚ましてからが楽しみだ、と年甲斐にもなく胸を躍らせながらやりかけの仕事を片付ける為にデスクへと戻ってゆくのだった
「・・・それは、マリアからのお誘いととっていいのかぃ?」
「嫌なら別に、聞かなかった事にしてくれてもいいんだぜ?」
得意だろ、そういうの、と悪戯な笑みを浮かべるマリアに
「いや、あまりにも美味しい話だからこれは夢なんじゃねぇかと、そう思っちまっただけだぃ」
と嬉しそうにマルコはマリアに口づけを落とした
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