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全ての仕事を終わらせて時計を見るといつもより早い時刻。しかし約束していた時間をまでにはあまり余裕はなく、歩みを早めて愛車の元と向かってゆく。
そういえばいつの間にやらたしぎの姿が見えなくなったがどうせあいつが無理矢理引っ張って行ったのだろう、と思い至りそれ以上考える事はしなかった


少し飛ばして向かうか、途中何か買って行くか。
そんな思考を巡らせながら進んでゆく歩みは少しだけ早くまるで会いに行きたいと自らに訴えているようで我ながららしくねぇな、と思いながら待ってくれているだろうあいつの元へと向かうのであった



マリアの家への道すじは至って簡単なものだ。
道なりに直進、そして目印となる花屋を左に曲がる。
すると前方から藍色をした屋根の三階建のマンションが見えてくる。そこの一階の右端の部屋がマリアの住んでいる場所となっており帰省してくる度に家に呼ばれてはご飯を食べたり酒盛りしたりするお決まりの場所だ。

バイクを止めて玄関を数回ノックする、いつもであればすぐにやってきて出迎えてくれるあいつだがその気配は一向に訪れない。
いつでも来ていいし何なら俺いなくても上がってていい、と押しつけられた合鍵を使っても良いが家主がいない部屋に勝手に上がり込むのも付き合いが長いとはいえ少し躊躇われる
どうしたものかと思案していると何やら駆け寄って来る足音が聞こえてきた

どうせあいつだろうから小言の一つでも言ってやろうと足音の方向へと振り向くと見知った顔ではなく目に飛び込んできたのは何やら白い大きな塊で


「・・・狼・・・?」


白い塊の正体はどうやら狼らしい、だがこちらに向かってくる訳がわからない
警戒をしながら背負っている十手に手を伸ばしかけた、その時



「す、スモーカー!!俺だよ俺!!」



「・・・マリア?」


間違いなくマリアの声であるがその声元がやってくる狼から発せられた者だとにわかに信じがたいが周りには他に疑う者もない。

走る速度からゆるやかなものになり尻尾をゆらゆら揺らしながらスモーカーの元へやってきた狼に膝をつき視線をあわせてみる。
よく見れば瞳の色や耳につくピアス等マリアの面影があり本人なんだろうと思い至る事ができる


「・・・・最近噂で見たことない白銀の狼が街を彷徨いてると聞いたがもしかしてお前の事か?」

全速力で走ってきたのか息が上がっているようで深呼吸をしたりして整えながら答えてくれた
「・・・あー、別に彷徨いてた訳じゃねぇんだけど、多分それ俺だわ。狼じゃなくてウルフドッグな。この間目の前でひったくられてる人がいてな、人の足じゃ逃すなって思ったから変わったんだ。スモーカーもその噂耳にも届いてたんだな・・・ってちょ、おいおいスモーカーさんや」

「・・・あ?」

「あ?じゃねぇよなにとぼけた風に言ってんだ、人の頭を揉みくしゃにするんじゃないよ」


目の前にいるモフモフとした存在に自然と手がゆき触りたくなるのは無理もない。それに文句を言いつつもフリフリと尻尾が揺れているマリアも嫌ではないのだろうと推測できる


「で、お前さん何でそんな姿でいるんだ」

「え?あぁ、ちょいと面倒なのに絡まれちまってさ、早く撒きたくて・・・よっと」

離れてろよと言われ距離を置くと犬でいうお座りの状態からゆっくりと本来の姿へと戻ってゆく。モフっとした体毛も消えて狼独特のピンとした耳も人間の耳へと変わり毛に覆われていた顔も人肌が見えてきた。
その光景は普段間近で見ることはなく物珍しさを感じてしまうものでスモーカーもついじぃっと観察をしてしまう。


すっかり元の姿に戻ったマリアは疲れたと呟きながら立ち上がり、スモーカーの方を見た

「まぁ、立ち話もなんだから家に入ろうぜ。あとの二人は?」

「・・・来れねぇそうだ」

「そっか、んー残念だなぁ。でも仕方ねぇか、急だったし。」


残念そうに言いながら玄関の扉を開けて家に入ろうとすると何かを思い出したか足を止めくるりと体をスモーカーの方へ向き視線を合わせ


「おかえり、お疲れ様」

「・・・今更じゃねぇのか、それ」

フッと笑いつつ言ってやればこう言うのって結構大事なんだぜ?と締まりのないふわっとした笑顔で遅めのお出迎えをしてくれた



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