組分け帽子



 名前を呼ばれたので、用意された椅子へと座る。するとすぐにマクゴナガル先生が私に組分け帽子をすっぽりとかぶせた。

「ふむ、マホウトコロの人間とは珍しい……君の両親も、義理の父親も私を被ったものだよ」

 頭に響く声に驚いていると、組分け帽子は嬉しそうに話を続ける。きっと自分が組分けをした生徒全員の事を記憶しているのだろう、非常に強力な魔法道具だ。

「君は勇気があり行動力がある、優しく接するよう務める事も出来る……マホウトコロの生徒らしく非常に真面目で勤勉。そして何より、自分の意志の為には手段を選ばず生き抜く術を知っている。うーむ……実に悩ましい」

 何やら私の組分けで悩んでいるらしい組分け帽子は、私の頭の上でもぞもぞと顔らしき部分を動かしている。
 それぞれのローブを着る自分を想像する。どれも素晴らしい学園生活が約束されるだろう、私はこの瞬間だけでなく今後数年を楽しみに地球の反対側までやってきたのだ。
 しばらくああでもないこうでもないと唸る組分け帽子に、ちょっぴり不安になる。もしかして私、どこにも所属できないのではないだろうか?そうしたらマホウトコロへ戻る事になる、お別れ会なんて開いてもらった手前恥ずかしくて学校に通いたくなくなってしまう。

「何、心配しなくても配属はされるとも。レイ・カナタ、君はどんな学園生活を送りたい?名声?友人?学び?どれでも君は勝ち取る事が出来るだろう。」
「……生涯を共に出来る、最高の友人が欲しいわ。そんな人、いたらとっても素敵。」
「ふむ、なるほどなるほど……私には見える。君が苦楽を共にする友人達に囲まれた姿が。しかし、最も困難な道になるだろう。それでもいいのか?」
「きっとお母様なら、『自分の行きたい道には嘘をつくな』って仰るわ。」
「そうか、ならばいいだろう……。」

 組分け帽子が一瞬静かになったかと思えば、大広間の端まで響くような大きな声を出す。

「グリフィンドール!!!」

 すると、真紅のローブに身を纏った生徒達からワァッと歓声と拍手があがる。中にはピーピーと口笛を吹くものまでいるようだ。どうやら盛大な歓迎を受けているらしい。
 席へ向かうよう促されたので歓迎の意を拍手で示した真紅のローブの生徒達の席へ向かう。
 どこへ座れば良いのか分からず一瞬困惑すれば、栗色の髪の少女が席を空けてくれたのでそこへ滑り込んだ。

「ありがとう、どこへ座ればいいか分からなかったの。」
「いいえ、貴方と話してみたかったの。ハーマイオニー・グレンジャーよ。」
「レイ・カナタよ。よろしくね、ハーマイオニー。」
「私東洋魔法界に関する本を読んだことがあるの、とても興味深かったわ。今度いくつか質問させてもらってもいい?」
「勿論、私に答えられる事なら。代わりに私にもホグワーツについて教えて欲しいわ、私初めて洋服着るくらいにはこっちの生活に疎いの。」

 日本ではいつも和服って言って伝統服しか着た事なかったのよ、と伝えると目をぱちくりしたハーマイオニーは笑顔で頷いてくれた。彼女は見るからに聡明そうだし、仲良くなれそうだ。
 ハーマイオニーは東洋からの留学生に知的好奇心をくすぐられ、あれやこれやと質問したい気持ちをぐっとこらえていた。すると、ハーマイオニーの後ろからそっくりの顔の二人が飛び出てくる。

「ハァイ留学生。ようこそグリフィンドールへ!」
「わぁ驚いた。貴方が二人に見えるわ、どんな魔法を使っているの?」

 素直な感想を述べれば、男は鏡合わせの自分と顔を突き合わせてゲラゲラと笑う。そしてその片方が口を開く。

「俺達双子呪文みたいにそっくりだよな、でも違う。俺達双子なんだ、俺がジョージでこっちがフレッド。」
「よろしく。」
「何年生に入るんだ?1年?」
「違うわ、東洋人は幼く見えるだろうけど私は2年なの。」
「じゃあ俺達の弟と一緒だ。あとで会わせてやるよ。」
「おいおいジョージ、我らがロニー坊やが明日の朝を拝めているか分からないじゃないか。紹介できるか?」

 違いない、とゲラゲラ笑った双子にはどうやら弟がいるらしい、ロニー……であっているんだろうか?1年生にも妹がいるといって、近くの席にいた赤毛の女の子───ジニー・ウィーズリーと挨拶をした。
 すると自分が連れていた従者が帽子を被り、帽子がうんうんと唸っているのが視界に入る。

「彼は何年生なの?」
「キキョウは4年生に入るわ、ジョージとフレッドと一緒。」
「ワォ、そりゃ楽しいね。因みにあいつとは知り合い?」
「えぇ、私の従者よ。でも寮はきっと違うわね、彼って───」

 純血主義だから、と言いかけた時に帽子が大きな声で「スリザリン!!」と叫んだ。隣のテーブルにいる緑のローブを着た人達が拍手で迎える。キキョウは私の方を見て何か言いたげにしながらも、迎え入れた人達の元へと歩いて行った。

「おいあいつスリザリンかよ。」
「どちらかというと私の方が珍しいと思うわ、日本って純血思想が強いの。」

 苦笑いして返せば双子は先ほどより興味なさげに相槌をうち、双子の名前を呼んだ同級生の元へと帰って行った。
 元々スリザリンを願われていた私はきっとこの後キキョウ経由で家族へと報告され、お小言を貰うに違いない。地球の反対側にいても彼等に縛られている事は変わりなかった。レイはまだ子どもであった。

 ダンブルドア校長先生の話が終わり、食事がテーブルに現れる。魔法で出していると分かっていても興奮を隠せないのは空腹のせいだろう。
 見た事のない料理の数々に戸惑ったが、ハーマイオニーが横からどんな食べ物なのか教えながら少しずつ皿へとよそってくれた。彼女はきっと世話焼きだ。



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