ホグワーツへようこそ



 汽車が止まると、ぞくぞくと生徒がコンパートメントから出てくる。赤に黄色、青……そして緑。それぞれの寮の色にまとめられた制服は統一感があり、上品に感じられた。中には私達と同じく色のついていない真っ黒なローブを着ている人もいて、きっと新入生なのだろうと察する。

「さて、私達も行きましょうか」
「はい」

 荷物は魔法で寮の部屋まで飛ばしてくれるらしく、手ぶらで外へ出る。生徒達で混雑する駅で私達はどこへ行けばいいのか分からず顔を見合わせた。ダンブルドアはこの後の手筈を「組み分け帽子に寮を選んでもらう」としか言っていなかった、ここからどうやって行けば良いのか見当もつかない。
 すると、近くに一際大きな……恐らく巨人族の血が混ざっているのだろう。ずんぐりとした巨体に髭をたっぷりと蓄えた男が立っている。「イッチ年生はコッチ」と言っているので、周りに真っ黒なローブの生徒達が集まっている。
 ローブの色で言えば私達もあちらなのだろうけど、新入生ではないし……と困っていると、巨体の男と目が合った。ちょっぴり怖い。
 私の気持ちを知らない男は、ずんずんと私達の目の前までやってきた。間近で見るとより迫力ある体型だと驚く。

「お前さん等の事はダンブルドア先生から聞いちょる。お前さん等もこっちだ、ついてこい」
「ありがとう、えーと……」
「俺はハグリッド。森の番人だ、よろしくな」
「えぇよろしく」

 私達を探してくれていたらしいハグリッドに、怖いだなんて見た目で判断した自分を恥じた。これでは頭の凝り固まった純血主義者と何も違わないではないか。
 ハグリッドに言われるがまま、新入生達の中に混ざり森の中を進む。たまに転ぶ子や、足を踏まれて怒る子がいる辺り、明かりをつけてやれば歩きやすくて良いのに。

 森を抜けると、湖に出た。湖の向こうには大きな城が見える、きっとあれがホグワーツなのだ。月明りに照らされ朧げに存在を主張する西洋の城のなんと美しい事か!
 見惚れていると、ボートに乗るよう促されたのでキキョウの手に捕まって小さなボートへと乗り込む。一緒に乗りこんだ赤毛の女の子もどこか楽しげだ。
 魔法処も海の上に学校があるため、どこか懐かしく感じる。ただ潮の香りがしないことや、去年まで見ていた景色とまるで違う光景に胸が高鳴る。私はここで、一体どんな出会いや学びを得る事が出来るのだろうか。お母様のように、かけがえのない人達と出会えるかもしれない、想像するだけで楽しみだ。

 美しい彫刻が施された校舎へと入れば、ハグリッドは迎えに来た厳格そうな魔女に生徒達を連れてきた事を伝え、どこかへと行ってしまった。ここからは魔女に従って動くらしい。
 これから組み分けをする事や学校生活を送る上での軽い注意事項を伝えた魔女マクゴナガルは、私達を小部屋へと押し込んだ。在校生が席に着くまでここで待機するらしい。
 ざわざわと周りの人と話始める新入生達は、不安そうな顔をした人が多い。話を盗み聞きするに、組み分け方法を伝えられていないようだ。

「きゃあ!」

 私達がいる場所と反対側の壁際から悲鳴があがり、何かあったのかとそちらを見ると壁をすり抜けて半透明の人間がふよふよと集まっていた。ゴーストだ。皆楽しそうに今年の新入生達を見て好き勝手に話している。

「やや!?もしやマホウトコロの生徒では!?」
「え、えぇ……驚いた。魔法処を知ってるのね」

 突然男のゴーストに声をかけられ素直に返事をする。周りの視線が痛い、そもそもマホウトコロが何なのか知らない人もいるのだろう。こそこそと話す声に居心地の悪さを感じた。

「勿論ですとも!……もしや、貴方はシオンの家の者では?」
「あら、母を知っていらっしゃるの?」
「えぇ、えぇ!貴方のお母様とはよく休み時間お話をしたものです。いやはや懐かしい!」
「母に伝えておきますわ」
「えぇ是非!私、ニックと申します。お見知りおきを!貴方がグリフィンドールに入る事を願っておりますぞ」
「ありがとう」

 まさかお母様の事を覚えている人、もといゴーストがいるとは思っていなかった。ニックと名乗ったゴーストはその後も何人かに話しかけているし、おしゃべり好きなのかもしれない。
 隣のキキョウを見ると、目立っていた私を心配しているような……複雑な顔をしている。自分のせいではあるが、彼は常に気苦労が絶えない男だ。

「旦那様はスリザリンをお望みですよ」
「知ってるわよそれくらい……血筋からしてもお母様が異常なのよね、分かってるわ」

 分かってる、グリフィンドールに入ればきっと家に帰ったとき親戚達から非難の声があがるだろう。お義父様はその筆頭だ。あの人はお母様と同じ時期にホグワーツに留学へ行って、スリザリンに入ったと聞いている。お母様が純血主義の家で異端だっただけだ。
 会ったこともなく、顔も知らずどんな人なのかすら知らない本当の父……すなわちお父様も、グリフィンドールだと聞いている。お母様とはホグワーツで出会ったと、お母様自身から聞いたことがあるからきっと本当だ。
 お母様が私を産む事が出来たくらいだから、きっとお父様も純血の家の出のはずだ。親戚は皆私の事を純血だと言っているし、自尊心の高い彼らがあやふやな血筋の人間を純血などと、ましてや跡取り候補だともてはやす訳がない。
……つまり私が知らないだけで、お父様もイギリス魔法界で純血の一族として名を連ねていたに違いない。なのに彼もグリフィンドールに選ばれたのだ。

 悶々と考えていると、小部屋の扉が開きマクゴナガル先生が新入生達と私達を同時に大広間へと連れてゆく。最後尾の私達が大広間へと入ると、天井一面に星空が広がっており何本もの蝋燭が辺りをゆらゆらと照らしながら浮いてた。魔法だと分かっていても、美しさにほぅ……とため息が零れる。
 指示された場所で立ち止まると、マクゴナガル先生は壇上へと上がる。先生方が並んで座っている椅子の真ん中にいるのはダンブルドア校長先生だ。留学許可証と共に我が家へいらっしゃって下さったから覚えている。
 前に置かれた椅子にはボロボロのとんがり帽子が置かれていて、新入生達と私達は不思議そうにそれを見る。すると突然口らしき皺が動き出し、4つの寮について歌を歌った。なんとも愉快な魔法の帽子だ。
 名前を呼ばれた人から前にある組分け帽子を被るよう指示され、組分け方法に不安を抱いていた者は安堵のため息をついた。
 Aから順番に呼ばれて行き、それぞれ4つの寮に振り分けられていく。

 私達二人を除き、新入生達の振り分けが終わる。するとダンブルドア先生が席を立ったので、周囲はざわついた。明らかに組分けの終わっていない者がいるのだから当たり前かもしれない。
 マクゴナガル先生がそれを静まらせると、ダンブルドア先生がゴホンと咳払いをしてから口を開いた。

「えー、まずはこの二人を紹介しようかの。マホウトコロからの留学生、レイ・カナタ嬢とキキョウ・カンザキ君じゃ」

留学生という聞きなれない言葉とマホウトコロというこれまた聞いたことのない言葉にホグワーツ生はざわついた。一体どこ?留学生ってどういう事?とこそこそ話し出すのを、またしてもマクゴナガルが黙らせる。

「以前はわが校も様々な学校と交流があったが、ある時期から廃れてしもうた……マホウトコロもその一つじゃ。東洋の島国ニホンにある由緒正しき、歴史の長い魔法学校じゃ。この二人はそこで優秀な成績を修めたため、ホグワーツへの留学を許可された優秀な魔女と魔法使いじゃ」

 マホウトコロの説明をしたダンブルドア先生は、話を続ける。

「今日からこの二人も新しい家族となる。文化の違いで困る事も多いじゃろう、皆で助けてあげて欲しい。以上じゃ」

 話を終えたダンブルドア先生に代わって、マクゴナガル先生が再び壇上へと立つ。

「ではまず、レイ・カナタ。前へ」



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