檻の中の朝



目覚めても、景色は変わらず……

私はタイツを履き、荷物を持ち食堂へと向かおうと部屋を出た。昨日天海君と回ったから覚えている。それにしても彼はモノクマが現れてから常に緊張の糸を張り巡らせているようなかんじだ。あのままじゃ体を壊すかもしれない、でも私にも近寄ってこない様子を見るに私の事も疑っているのだろう。メンタルケアも医学を志す一人としては立派な仕事ではあるが、私を疑うならそんな隙を見せるはずもないか……と一人ため息をつく。

宿舎を出たところで声をかけられ振り返ると、赤松さんと最原くんが立っていた。

「奏多さん、昨日はごめん!」
「赤松さんおはよう。私の不注意が原因のケガだし、誰も悪くないよ」
「でも、まだ痛むでしょう……?私が無理させたりしたから……」
「ううん、テーピングはしっかり固定されてるし痛くないよ。私こそ、昨日王馬くんに言われてる時庇ってあげられなくてごめんね」
「そ、そんな!大丈夫だよ、最原くんも一緒だったし!」
「僕は何もできなかったよ。赤松さん達はすごいね」

赤松さんの横で少し顔を赤らめる最原くんは、自分の不甲斐なさを嘆いていた。あの脱出ルートで探偵の才能が生かせる部分はあまりなさそうだったし、赤松さんの統率力がすごかっただけだ。
私自身も鼓舞されたし、私達ならできるんじゃないか……そう思わせる何かが彼女の言葉には宿っていた。

「最原くんも弱音一つあげなかったのはすごい事だよ。ケガもなかったし、それが一番」
「奏多さんの言う通りだよ最原君!」
「そ、そうかな……二人とも、前向きですごいね」
「うーん、私は赤松さんみたいに前向きじゃないよ。もっとつらい事を知ってるだけ」

そうだ。あの頃に比べればこんな事、痛くも痒くもないはずじゃないか。論文が書きかけだったり、実験データも途中なのは痛いけれど、生きてここに立てている。それだけで、私は十分だった。

「もっとつらい事って……?」
「……ここを出たらね。今話すような内容でもないし、ここを出ることが何よりも大事でしょう?」
「うん、その時はしっかり聞かせてもらうね!」

脳に靄がかかったような感覚がして、怖くなり話をぼかす。
あの頃って一体いつのことだったっけ?そんな単純でとても重要な根本的な部分に靄がかかっていた。それに気づいてしまうと危険な気がして、本能でそれを感じなかったことにした。

その後も他愛のない話をして歩けば、すぐに食堂へつく。
扉を開けるとほとんどのメンバーが揃っていた。


「奏多ちゃんおっはよー!」
「うわっ!王馬君か……おはよう、朝から元気だね」
「まぁね!俺は24時間起きてても大丈夫なように改造されたから!嘘だけどね!」

突然現れたと思うと息をするように嘘をつく彼は、私の足を見ていた。
もしかして、心配してくれているのだろうか?
私の視線に気づいた彼は、まじまじと私の事を見る。値踏みするかのように全身を見ると、目をキラキラさせて両手を掴んできた。

「やっぱり!奏多ちゃんって俺の組織の人間だよね!?」
「えっそうだったの!?ゴン太知らなかったよ……二人がお友達だなんて!」

唐突な言葉に目を丸くしていると、近くに座っていたゴン太くんが驚いて私達を見ていた。彼は初日通りの印象のまま、純粋無垢なのだと思う。

「違うよゴン太くん、彼の嘘だよ。私は変な組織に身を置いた記憶はないもの」
「たはー!変な組織だなんてひどいなぁ!」
「まともな組織ではないと思うよ、本当にあるならの話だけどね」
「存在まで疑うのー?ひどいなぁ奏多ちゃん、奏多ちゃんだって俺の組織のトレードマークつけてるじゃん」
「トレードマーク……?」

私が彼の組織のものを持っているはずがないと思い、カバンをごそごそと漁るが医薬品など、いつも通りの私の荷物だ。じゃあ一体何が?
そう思っている私の心を読んだかのように、彼は指をさす。

「そのリボンだよ!俺のとお揃いでしょ?これは俺の組織が秘密裏に開発した特別製なんだからな!」
「そんな事言われても、いつの間にか買ってたような市販品だよ……それに、王馬君のも特別製とかじゃないでしょ」
「そんな安いモンじゃないよ?これ一枚で国が買えるんだからねー!」

嘘をぺらぺらと並べる王馬君に、ゴン太くんは既にキャパオーバーのようでおろおろしながら嘘か真かを本人に聞いていた。私は王馬君の嘘に呆れていると、またモノクマーズの声が響いた。







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