ネバーランドへようこそ



目を開けると、暗闇の中にいた。


驚いて息を大きく吸えば、随分と埃っぽいうえに少し鉄のような匂いがする。つまり気分の良いものではない。

特段匂いによって体調不良などは起こさないような健康的な体をもって生まれたのだが、如何せん暗い。その上この空間は狭いらしく、身動きがとても取りづらかった。

小柄というのが幸いして、腕で前の空間を押し一歩踏み出すと光が視界いっぱいに広がる。


机と椅子が数列に並んでいる、教室のような空間だった。
教室の"ような"という表現は我ながら的を射ていると思う。なぜなら教室とは清潔な空間なはず。しかし私のいるこの場所は少し埃っぽく、蔦や雑草などが生えているのだ。それに窓も鉄板で封じられ、廃校舎のような雰囲気を感じる。しかし黒板は電子黒板らしく、明るく輝いていてなんともちぐはぐな感じがするが、このちぐはぐさこそがSF映画のようにも感じる。こんな不思議な空間に来た覚えは、私にはない。

つまりだ。私は意図せずにここへ来たこととなる。
冷静に自分の状況を分析したところで不安になり、自分の身なりを確認する。いつも着ている白衣に肩掛けの医療用品の詰まった鞄(中身もしっかりと入っていた)、服装も至っていつも通り。

私が出てきたところを確認すると、なんと掃除用ロッカーだ。それなら埃っぽく臭かったのも納得いく。なんでそんなところにいたのかは全くもって理解できないが。

不安になり市松模様のリボンをいじりながら周りを見渡していると、ガタガタッと大きな音を立て、私が出てきたロッカーの隣から男の人が出てきてバランスを崩し前のめりになって倒れた。

「だ、大丈夫ですか…?」

頭を打ってしまっているのではないかと不安になり、駆け寄ると爽やかな新緑の髪がさらりと揺れた。

「……大丈夫っす、驚かせちゃいましたね。」

むくり、と起き上がった男の人は耳や眉にこれでもかというほどピアスをつけていた。人の趣味趣向にとやかく言うのはナンセンスだが、ただただ開けた時痛かっただろうなぁなんて想像してしまった。

きょろきょろと起き上がった彼は辺りを見渡す。彼の表情からは特に何も読み取れないが、ここという場所を理解しているような雰囲気はなかった。

「あー……とりあえず、自己紹介するっすね。俺は天海蘭太郎っす、よろしくっす。」
「私は奏多なくらです。よろしくね、天海くん。」

お互いに気まずくなり自己紹介をすると、人当たりのよさそうな顔ではにかんできた。どうやら彼はコミュニケーション能力が高いらしい。

「奏多さんはここがどこか知ってるっすか?俺には残念ながら見覚えがないんすけど……」
「天海くんも?実は私もここがどこかなぁって思ってるところだったんだ……。」
「そう、っすか……どうやって来たか覚えてるっすか?」
「え……。」

どうやってこの狭いロッカーまで来たか、それすらも思い出せないことに気づいたとき、二人だけの空間に私の不安と正反対の明るい声が響き渡った。



『おはっくまー!!』







list


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -