ド変態視点。
前回よりはまだまし……多分。
愛しいあの子から送られてきた手紙をじっくりと眺める。
羊皮紙に書かれているのはたった一言、
『ある』
とだけ。
しかしたったそれだけの内容でも精霊バカのあの子が僕のために時間を使って書いた手紙となるとその価値は計りしれない。
あの子らしい流れるように美しい文字を指でなぞりながら僕は思う。
「あの子かなり僕のこと好きだよね」
……おっと、しまった。つい声に出してしまったみたいだ。
この塔で話した内容は全てあの子に伝わってしまうんだよね。参ったな。恥ずかしがりやなあの子のことだからきっと後でお説教されちゃうな。
綺麗な瞳に僕を映して怒るあの子の姿を想像して自然と口角が持ち上がった。
「ぐはっ鼻血でた!! あの顔であの微笑み……っ!! イイヨイイヨさっきの無様な姿は見る影もないよ!!!」
……さて、早くあの子のところへ行かないと。
◇◆◇◆◇
「久しぶり、マイスウィートハニー」
「相変わらず気持ち悪い人ですね死んでください」
常識外れに高い塔の階段を一階から最上階まで全速力で登り、あの子の部屋の扉を開けてウインクと共に挨拶した途端、愛しいあの子……ではなく僕の大嫌いな奴の声がした。
「……君には言ってないよ」
「知ってます寧ろわたしに向かって言っていたら既にここから蹴り落としてますロヴァッサに言っているからまだ貴方は死んでないんですよわたしの慈悲に感謝してくださいねと言うか貴方がおぞましいこと言うから鳥肌たったじゃないですかどう落とし前つけてくれるんですか」
「……はいはいごめんね」
一応言い返してみたけれどまた何倍にもして返された。口下手な僕はこいつに一度も勝ったことがないから最近は圧倒的に僕が諦めてあげている。
若干苛つきつつも相手は愛しの彼女が溺愛する精霊だから手を出すわけにもいかないので、さっさと話を変えることにする。
「で、ロヴァッサはどこ?」
「は?」
「え」
「なんで貴方にロヴァッサの居場所を教えなきゃならないんですか貴方をロヴァッサに近付かせる訳ないでしょうそもそも貴方がここに来た目的はロヴァッサに会うことじゃありませんよね? 魔術書を借りに来たんですよね? わたし何か間違ってます? あと『はいはいごめんね』くらいで落とし前つけられると思ってます? 勘違いも甚だしいですよやっぱりここから落としていいですか?」
……うん、怒っていいかな、いいよね。
いい加減そろそろ目の前の敵に対して堪忍袋の緒が切れそうになった時、
「遅い」
柔らかく澄んだ可愛らしい声が聞こえた。
「リナリアを苛めない」
しかし僕の愛しい愛しい女の子、ロヴァッサはあり得ない勘違いをしているようだった。
「ごめんその汚名は弁解させて寧ろ苛められてたのぼ「ロヴァッサあああああ!! ラルフに苛められたあああああ!!!」」
くっそ、あの野郎!!!
さっきまでの威勢はどこへやら、リナリアはロヴァッサに抱きついてえぐえぐと涙を流していた。
「リナリア可哀想……ラルフ」
「断じて苛めておりません」
「……じゃあ魔術書貸さな「申し訳ありませんでしたリナリア様全面的に僕が悪かったですお許しください」
「……リナリア」
「許してあげてもいいよお?」
勝敗が決した途端、ににやにやと笑いながらそう言ってロヴァッサの腕の中から降り土下座している僕の頭に足を乗せ、
思いっきり踏んだ。
「わたしに勝とうなんて百年早いんですよ魔術バカの分際で」
……魔術書さえ手に入るならわりとどうでもいいかな。
「頭踏まれてるのに平然としてる……まさかマゾヒスト……とびっきりの美形なのに本に欲情する変態マゾヒスト……生きてても周囲の人全員から気持ち悪がられるド変態マゾ……やっぱり死んで剥製になった方が……」
作者「前回の語り手はド変態殺害を計画中」