校舎内にはもう誰もいないであろう時間帯。
わたしは眉をつり上げた見知らぬ女生徒たちと向き合っていた。
見に覚えのない彼女たちの怒気に小刻みに身体を震わせながらも、精一杯の勇気をかき集め、か細く声を搾り出す。

「あ……あの、お話って」

わたしを手紙で校舎裏に呼び出したのは間違いなく彼女たちである。
呼び出しの理由について言及しようとした。
途端、

ーーーーガンッッ!!

一瞬何が起こったのか理解できなかった。
間近に迫る怒りと憎しみに満ちた表情を目の当たりにし、漸くどうやら彼女たちの内の一人がわたしの顔の横すれすれの位置の壁を殴りつけたのだとわかった。

「あんたのその態度がムカつくのよ! この糞ビッチ!!」

わたしのことが心の底から憎くてたまらない、と言う感情がありありと感じられる声が空気を震わせた。
思わず顔が歪みそうになり、慌ててうつむき顔を隠す。

「環(たまき)くんをたぶらかして! あんたがわたしから環くんを奪ったのよ!! 全部あんたのせい!!」
「そうよこの性悪女! エリに謝りなさいよ!!」
「いつも男にいい顔してるビッチのくせにエリから釧(くしろ)くん奪ってんじゃねえよ!!」

畳み掛けられる言葉に思わず体が跳ねる。
助けを求めるように視線をさ迷わせると、視界にこちらに駆けてくる『仲の良い友人たち』が映った。

それに気付かずエリと呼ばれた女生徒はわたしの首元を掴み上げる。

「なんとか言いなさいよ! ビッチ!!」





「うるせえよ、この勘違いデブス」

耳元で囁いた言葉に目を見開いたブスは次の瞬間顔を怒りに歪めて、

ーーーー強くわたしの頬を打った。


◇◆◇◆◇


「あー、何回思い出しても笑えるわ、あの顔」

打たれた頬に湿布を張りながらわたしは自室でニヤニヤと今日の出来事を思い返す。
あの後、『仲の良い友人たち』がわたしをエリとか言うデブスとその仲間たち(笑)から救い出してくれた。『仲の良い友人たち』の中には釧環くんとやらもいたから相当堪えただろうなー。
ただでさえ不細工な顔が泣いてメイクも落ちて薄汚れた豚になってたし。

「やっぱ人の彼氏寝取るの楽しいわ」

ニヒ、と効果音がつきそうな顔で笑いながら我ながら性格悪いなーと思う。
でもまあ、仕方ないじゃんね? 楽しいんだから。

暫く悦に浸ったところでわたしは唐突にアイスが食べたくなった。
冷凍庫を覗いて見るがわたしが望んでいるバニラアイスがない。

「コンビニ行くかあ……」

面倒だがバニラアイスが食べたい気持ちには逆らえない。
泣く泣くわたしは財布を片手にコンビニを目指した。


◇◆◇◆◇


コンビニに行く途中、道にあのエリが立っていた。
うげえ、と顔をしかめ道を引き返そうとしたが、エリがわたしを見つける方が早かった。

「あっ、橋本さ〜ん!」

あんなことがあったにも関わらずニタニタと話しかけて来るエリにわたしの頭にサイレンが鳴り響く。

こいつはやばい。

「いえ、人違いです」

うつ向きつつ早足でエリの横を通り過ぎようとした。

「きゃあっ! いった……?!」

衝撃を感じた次の瞬間、わたしの目の前にはバスが迫っていた。
体がすくんで身動きできない。
唯一動かせる視線の先に血走った目をしたエリが映る。

「死ね」

全身に今まで感じたことのない強い衝撃を受け、わたしの意識は途切れた。


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