わたしの人生って、何なんだろう。
それはわたしの心に四六時中居座っていた言葉だった。
生まれた時から未熟児で、母親に抱かれることもなく保育器行き。
それから今まで、一ヶ月以上病院から離れた試しがない。
当然そんな貧弱な身体では学校になど通える訳もなく、成人した良い大人が同年代の友人一人もいない、所詮ぼっち。
家族はいつまで経っても元気にならない娘をとっくのとうに見放し、今は十歳以上年下の弟にかかりきりだ。
それでも悲観に暮れるほどじゃなかった。
担当の先生は懐の広いお茶目なお母さん先生で、看護婦さんもいつもニコニコと世話をやいてくれるお姉さんみたいな人たちだ。
病院内の子供らとはよく遊んでやってるし、そのお蔭かわたしに凄くなついてくれている。
わたしにとって皆大事な家族。
でも、心の何処かで嫌な感情が燻っていた。
こんな身体に生まれたかった訳じゃない。
好きで病院暮らしなんてしてる訳じゃない。
もとから家族に愛されなくても仕方ないと割り切れた訳じゃない。
思いっきり走ってみたかった。
家族で遊園地に行ってみたかった。
友達と学校帰りに寄り道したかった。
恋人が欲しかった。
鏡を見る度に思う。
見るからに不健康そうな青白い肌に顔じゅうに広がる吹き出物。
運動をすることもできないでぶくぶくと膨れあがった身体。
醜いわたし。
なんでわたしなの。
言ってもどうしようもないとわかっているから口に出せなくて、心の奥でずっと呟いていた。
全部、どうしようもない。
呼吸が荒くなる。
いつもの発作だ。
ナースコールを手に取る。
心はこれ以上ないほど沈んでいるのに、不思議と穏やかな気分だった。
ふと一つの願いが頭をよぎる。
諦めの悪い自分に失笑しながら、言い訳するように呟いた。
「……来世に期待するくらい、良いよね」
もしも次があるのならば、この青白い吹き出物だらけの肌も、脂肪に埋もれた身体もそのままで良いから、
「せめて健康にしてね」
言った後、宗教じみた思考に思わず笑いが溢れた。
無理せずに笑ったのなんていつぶりだろう。
窓を見る。
広がる空はどこまでも青く、唯一綿のような入道雲が青の世界を彩っていた。
夏の眩しい日差しに目を細める。
ナースコールは、押さなかった。