愛情表現 【8】

「じゃあ、後で式場で…」

 結婚式まであと三ヶ月。

 少しずつ忙しくなってきた。

 それでも一日に一回は憲ちゃんを思い出す。

 ちゃんとご飯食べてるかな?

 大好きなアニメ欠かさず見てるのかな?

「あ…」

 前から歩いてきた人と目が合った。

「久しぶり」

 こんな偶然ない…ってあったら困る。

「元気だった?」

「うん、憲ちゃんは?」

「なんとか生きてる」

 気まずい…何か言わなくちゃ…。

「結婚…するんだ?」

 私は左手を指差されて慌てて後ろに隠した。

「おめでと…」

「あ、あっ…」

 かける言葉が見つからなくて憲ちゃんはそのまま私の横を通りすぎて行った。

 懐かしい香水の匂い…それは私がプレゼントした香水だった。

 憲ちゃん…何で何も言わないの?

「憲ちゃんっ!」

 振り向きもせず歩いて行く私は慌てて追いかけて腕を掴んだ。

「待って!」

「どうしたの?もう話す事ないよ。元気そうで安心した」

 どうしてそんなにいつも冷静なの?

「憲ちゃん、和美のこと…」

「俺が何か言えると思う?」

 言って欲しい。

 でも今は私の気持ち言いたい。

 ずっと待ってたかった…なのに…この気持ちに嘘はつけない。

「私ね…憲ち…」

「全てを捨てられる覚悟があるなら続きを言ってね?」

 あ…薬指が急に重くなった。

 別れ際に携帯番号が手書きされた名刺を渡された。
 
 電話するなら全て捨てる事になる。

 式場の前で立ち尽くす。

 ここに入るならこの名刺捨てなくちゃいけない…。

 手に持った名刺をぎゅっと握る

 全てを捨てられる?

 全てって?結婚?優しい旦那様?安定した生活?

「和美さん?中で待っててくれれば良かったのに」

 優しい笑顔の信也さんがいつの間にか隣に立っていた。

「どうしました?」

 この穏やかな時間を捨てられる?

 でもどうしても捨てられない物がある事に気付いた。

 それは憲ちゃんへの私の想い。

「ごめんなさい」

 私は指輪を外して頭を下げた。

 憲ちゃんへの想いを抱えたまま幸せにはなれない。

「和美さん…?」

「こんな事になって、ごめんなさい」

 それだけ言ってその場から走り去った。
[*前] | [次#]


コメントを書く * しおりを挟む

[戻る]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -