女々しい俺の恋 【10】
10年越しの告白の決心が出来ないまま俺達はいつもと変わらない生活を送っていた。
愛ちゃんの愚痴も泣き顔も千里ちゃんの困った顔も亘の心配しながらも早くけじめを付けろ語る目も何も変わらない。
だけどそんな何一つ変わらない俺達に大きな出来事が起ころうとしている。
「水口さーん」
仕事が珍しく早く片付いて定時で退社しようとエレベーターを待っていると後ろから呼び止められた。
「どうしたの?」
息を切らして走ってきたのは同じ課の桐谷初美さんで今年の新入社員だ。
「後ろ姿が見えたから駅まで一緒に帰りたいなぁと思って!」
笑って首を少し傾げたその姿は男なら誰でも可愛いと思える仕草で当然俺も一瞬ドキッとした。
「あぁ…うん。いいけど」
エレベーターに乗って桐谷さんの横に立つと甘ったるい香りがした。
桐谷さんには合ってるけど…俺はいつも愛ちゃんが付けてる香水を思い出した。
鼻を麻痺させながら二人で探した香水。
爽やかなオレンジの香りがする愛ちゃんらしい香り。
あの時も俺が一緒について行ったんだよな…。
そんな些細な事も忘れない自分自身に悲しくなって思わずため息が出た。
「水口さん?もしかして迷惑でした?」
俺と頭一個分違う桐谷さんが下から心配そうな顔をして見上げているのに気付いて慌てて否定した。
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