『番外編』
初めてのバレンタイン【10】
もうあれから十日近く経った。
まるでそれは恐怖のカウントダウンのようだった。
ため息をついたせいか二人が心配そうな顔で覗き込んでいるのでかのこは思い切って打ち明けた。
「遠足とかは寝ても寝てもなかなか来ないのにーテストは寝なくてもあっという間に来るじゃないですかー。あれってー絶対神様が時間操作してると思いません??」
自分でも上手いこと言ったと拍手したくなった。
でもまさにその通りだった、楽しいことはなかなか近付いて来ないのに嫌なことはあっという間にやって来る。
「もー菊ちゃんってー時々おバカだよねー」
ケタケタと笑うさくらの顔はその後にまだ何か言いたそうだったが何も言わず含み笑いをかのこに向けた。
かのこは何となく言いたいことが分かりぎこちなく視線を逸らした。
「でも菊ちゃんの言うとおりよね! 私も合コンまでは指折り数えて待ってるけどなかなか来ないのよねぇ」
「確かにねー私も分かるよー。ってー私はあんまり指折り数えて待つような楽しみもブルブル震えちゃうような嫌なこともないけどねー」
さくらの言うことはいつもちょっと変わっている。
見た目はまるで砂糖菓子のようにフワワン、ポワワンとしてるのにその腹黒(?)さは初対面では絶対に気付かない。
それはまるで砂糖でコーティングされたハバネロ、見た目は可愛くて美味しそうでも徐々に徐々にその本性を表していく。
真帆の生活は合コンから出来ているがさくらはなぜか私生活がまるっきり謎で普段何をしているのか分からない。
かのこは前に休みに何をしているのか聞いたことがあったが返って来た答えに首を傾げた。
「プリン食べたよー」
たった一言のその答えになぜかそれ以上聞く事は出来なかった。
「それで菊ちゃんはーなんか嫌なことでも待ってるのー?」
「い、嫌なことというか……嬉しいんだけど、ちょっと怖ろしいというか……」
ハッキリと相談出来たらいいけれどそれが出来なくて曖昧な言い方になってしまう。
真帆とさくらは首を傾げて顔を見合わせていたが、さくらが何か分かったのか急にポンッと手を叩いた。
「例えばーあれでしょー? すっごいカッコよくて好きな先生がいるんだけどーいっちばん苦手な数学の先生でー明日の朝一から小テスト、って宣言されたみたいな感じー?」
「えぇ……なんかもうすごい具体的だけど、まさにそんな感じ……です」
「先生には会いたいけどテストは嫌だ? 私だったらそんなもん屁でもないわね! 数学の先生が好きなら数学ごと愛しちゃうわよ!」
「もう……なんていうか真帆先輩って……キング・オブ・ポジティブって感じですよね」
「あー菊ちゃーん、上手いから座布団一まーい!」
かのこは悩んでいたことも吹っ飛び声を上げて笑った。
お弁当の続きを食べながらまた何か言い合いを始めた二人を仲裁したり真帆を宥めたりさくらを嗜めたりする。
それはこの十日間何も変わらないいつもと同じ昼休みだった、そうこの時までは……。
「随分、楽しそうですね」
そしてついに……悪魔降臨。
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