『番外編』
初めてのバレンタイン【8】

「神様は……残酷ですよねぇ」

 ポツリと呟いたかのこの一言に同じ課の真帆とさくらは昼ご飯を食べていた手を止めた。

 それに気付かないかのこはフォークを口に咥えたままボンヤリと宙を眺めている。

「菊ちゃーん?」

「分かるっ! 分かるわぁ、菊ちゃん! 神様は残酷かもしれない、でもねっそれが二人の気持ちをさらに燃え上がらせるのよっ」

 いつものようにポワンとした顔でプリンを食べるさくらは首を傾げた。

 だがその隣で真帆は箸を握り締めると急に目を輝かせ立ち上がった。

「こんな風に二人を引き裂くなんて神様はなんて残酷なのかしら。でも会えない時間に愛は育っていくものよ。菊ちゃん、見てなさい。課長と私の愛の強さを見せてあげるわっ!」

 いつもの調子で斜め四十五度の上空にある何かを見つめて胸の前で手を合わせている。

(ハァ……真帆先輩にもいつか言わなくちゃ……)

 だが今はそれよりも気になることのあるかのこはこれまたいつものように話半分で聞いていた。

「愛が育つっていうより、一方的に暴走してるだけですけどねぇ〜。もう、なんていうかーストーカー一歩手前ーみたいなー」

「さーくーらー?」

「あーでも……ストーカーまでもいってないですよねー。妄想してるだけで課長にもその彼女にもなーにも迷惑かけてないですしー」

「なぁに言ってるの! 私と課長は脳内で愛しあっ………………さくら、今……彼女って言った?」

「言いましたー」

「なに、その情報!!! 彼女いるの? ほんとにっ?? 菊ちゃん、課長に彼女がいるなんて知ってる??」

「えぇっ!? え、えぇ……えぇ…………っっと、あの……えぇ!?????」

 さくらの一言に真帆が目の色を変えた。

 真帆はボンヤリしていたかのこの肩を掴むと激しく揺さぶる。

(ど、どどどどどうして!?)

 かのこは思ってもなかった展開に目を白黒させるだけで、真帆にされるがまま上半身を人形のように揺らしていた。

 なぜさくらがそんなことを知っているのか、考えても分からないというよりそんなことを考える余裕すらもなくただただ口をパクパクさせた。

「例えばーですよ。だってぇ課長はお坊ちゃまだしーまぁ、私のタイプじゃないですけどーそこそこイケメンだし? 彼女の一人や二人や三人くらいいたって当然だと思うんですよねー」

(さくら先輩って……なんていうか怖い物知らず?)

 あくまでものんびりした口調のさくらは二つ目のプリンを口に運びながら二人に向かってニッコリ微笑んだ。

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