『番外編』
初めてのバレンタイン【4】

「お前の部屋に来るのも久しぶりだな」

「そうだぜーホテルなんか泊まらないで俺んとこ泊まればいいだろ」

「願い下げだ。十日も汚い部屋に居られるか!」

「そう言うなって」

 ガチャガチャと乱暴な音を立てて鍵を開けると二人は部屋の中に入った。

 手探りで部屋の明かりを点けると「ハァァァッ」と盛大なため息が一つ。

「お前の頭の中には掃除という言葉はないのか」

「来週にはハウスキーパー来るって」

「毎週呼べ、毎週!」

 旧知の仲の二人は久しぶりの再会を祝うために仕事帰りに食事を済ませると小奇麗なホテルではなく小汚い元同僚の部屋を訪れた。

 部屋の主は「まぁ適当に」と言おうと振り返るとすでにネクタイを緩め、器用に物を避けながらソファに座ろうとしている姿に苦笑いした。

(相変わらずだねぇ)

 久しぶりの感覚にくすぐったさを覚えながらいつものようにパソコンの電源を入れ冷蔵庫から飲み物を取り出すとソファ目がけて放り投げた。

「他にないのかよ」

「うるせぇ! たまには庶民の飲み物を飲みやがれ!」

 受け取った缶ビールを手の中で転がしながらボソリと呟いた言葉はどうやら耳に届いたらしく間髪入れず怒鳴り声が返って来た。

 それでもすぐに缶を開けて口付けるのを見るとそれ以上は何も言わず、自分の分の缶ビールを取り出してから向かい側のソファの服だがゴミだか区別の付かない物を片付け始めた。
 
 ――You've got mail!!

 聞こえて来た音に迷いながらもソファに下ろし掛けた腰を上げた。

「おっ! 意外な可愛い子ちゃんからメールだなっと」

「何だそりゃ」

 興味のなさそうな返事を返しテレビを点ける男は気だるそうに前髪をかき上げながらソファに背を預けた。

 疲れているのか目頭を指で押さえ揉み解し長めの睫毛をソッと伏せた。

「プッ!!! アハハハッ!!」

 突然の大きな笑い声に驚き落としそうになった缶ビールを慌てて掴み、まだ腹を抱えて笑っている姿を横目で睨みつけた。

 相当面白いらしくパソコンの画面を覗き込んでは机を叩いて笑っている。

「そんなに面白いのか?」

「面白いなんてもんじゃないね! つーかありえねぇ! ほっんとあの子面白いなぁ」

 その様子がかなり気になったのか眉間に皺を寄せながら立ち上がった。

「お前は見ない方がいいぜ」

「気になるだろ。見せろよ」

「見てもいいけど……後悔すんな?」

 意味深な流し目を「フンッ」で鼻であしらいながら男はパソコンの画面を覗き込んだ。

 メールに目を通した男の表情はみるみるうちに強張り、微動だにしなかったがしばらくしてから大きく息を吐き出す。

「何も聞くな」

 苛立たしげに吐き捨てると声と同じくらい乱暴にキーボードを打ち始めた。

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