『番外編』
初めてのバレンタイン【2】

「わかめ酒」

「へっ? わかめ酒?」

 和真の言葉にかのこは首を傾げた。

 もっと難しい名前の酒かと想像していたのにあまりにも拍子抜けな名前。

「…………知らないのか?」

「え……うん」

 驚いた顔をされたかのこは恥ずかしそうに頷いた。

(有名なお酒だったのかな?)

 和真はかのこの反応にしばらく逡巡していたがニッコリ微笑んだ。

「出張から帰ってきたら、飲ませてくれるか?」

「……いいけど、それって高い? 普通に酒屋さんとかに売ってる?」

「心配しなくていい。帰ったらお前と一緒に用意する、それでいいか?」

「でも……それじゃプレゼントにならない……」

「俺がお前と一緒に用意したいんだ。それではダメか?」

 優しい声でそう囁かれたらかのこは頬を赤らめて首を横に振るしかない。

「帰って来るの待ってる」

「いい子だ」

 従順に頷いたかのこに和真はご褒美のキスをする。

 嬉しそうに和真の胸に顔を埋めたかのこは優しく髪を撫でられながらその日が楽しみで胸を躍らせていた。

(初めてのバレンタインだもん、ちょっとくらい高くても奮発しなくっちゃ)

 健気にもかのこがそう思っていると和真がボソッと呟いた。

「俺が帰って来るまで調べたり誰かに聞いたりするなよ? そんなことしたら俺の楽しみが半減するし……かのこの知らないことは他の誰でもなく、俺が教えてやりたいんだ」

「うん……ちゃんと待ってるよ」

 優しい愛の睦言のようにその言葉を受け止める。

 だがかのこはその時の和真の表情を見ていたらそんなことは言わなかっただろう。

 いかにも楽しそうに口元を緩めたその表情は明らかに何かを企んでいる顔で、その顔をした時の和真には散々泣かされていたのはかのこ自身だったのだから。

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