『番外編』
世界最強言霊使い【7】

 頭を上げようとすると頭上からクックッと笑う声が聞こえて来た。

「……祐二?」

「お前、今日は謝ってばっかだなー!」

「だって……祐二怒ってないの?」

 あまりに楽しそうに笑う祐二が不思議に思えて聞き返すと、思い出しように祐二は顔を険しくした。

「怒ってる! このクソ寒い日に外で三十分だ! 三十分! ジュース一本じゃ誤魔化されねぇからなっ!」

 片手を腰に当て俺を指差しながら祐二が怒っている。

 でも嬉しくて嬉しくて涙が出そうだった。

 あんなことをした俺よりも勝手に先に帰ってしまった俺に対して怒っている。

「いいよ。祐二の食べたいもの、何でも奢る」

「ホントだな!? 男に二言はないな??」

「うん、ないよ。何でも好きな物食べていいよ」

 こんな嬉しい気持ち、お金には替えられないんだ。

 俺のしてしまったことは最低だったけれどこんな祐二を見られたことがすごく嬉しい。

 そして一瞬で俺の気持ちを軽く幸せにしてくれる祐二のことを、どんなに諦めようと思っても好きで好きで、どうしようもないくらい好きで仕方がないんだ。

 だから図々しいとは思ったけれど思い切って口を開いた。

「ねぇ……祐二、それでその女の子と……」

「あー……結局その場で告られたんだけど、断った」

「断った!?」

「可愛かったんだけどなー。大人しすぎるっつーか、多分俺とは合わないと思ったから」

 あっけらかんと答える祐二に思わずホッとしていると、目の前の祐二が意味深に笑いながら見上げてくる。

 上目遣いで見上げられドキッとしたのを悟られないよう咳払いをして誤魔化すと祐二はさらにニヤニヤしながら顔を近づけた。

「俺とあの子が付き合うんじゃないかって心配したんだろー。良かったなー貴俊!」

「…………」

「って勘違いすんなよっ! お前のために断ったわけじゃねぇぞ? そん時はまだ知らなかったんだからな、あーでもオッケーしてお前の悔しそうな顔を見るっつーのも悪くなかったかもなー」

「祐二……」

「バーカ! 冗談だ冗談! そんなんでオッケーしても相手に悪いしな!」

 楽しそうにケタケタ笑う祐二はベッドに腰掛けて俺に何を奢ってもらうかブツブツ呟き始めた。

 俺、祐二を好きになって良かったよ。

 自分の想いが叶わなくても祐二はこんなにも俺を幸せにしてくれる。

 今までのバレンタインで一番嬉しい日だよ、きっと今日のことはこの先もずっと忘れない。

「牛丼、特盛なっ!」

「半熟玉子とけんちん汁も付けていいよ」

「ヨッシャ!」

 何でも奢ると言ったのに嬉しそうにガッツポーズをする祐二が可愛くて抱きしめたくなったけど我慢する。

 でもそういうことが許される日がくるかもしれない、なぜか分からないけれどそんな予感がした。

end
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