『番外編』
世界最強言霊使い【4】
「何で言わなかったんだよ!」
暗くて顔はハッキリ見えないけれど表情なんて分からなくても声を聞くだけで祐二が怒っていることはすぐに分かった。
それもすごく……苛々している――もうダメだ。
十六年間ずっと祐二の幼なじみとして側にいられたのにそれすらも叶わなくなってしまう。
「ゆ、祐二……」
「先に帰るなら帰るって一言言えっつーの!」
「…………」
「携帯鳴らしてもぜっんぜん出ねぇし? おかげで俺はなぁ……寒空の下で三十分も待ってたんだぞ!」
予期していた言葉と違う言葉を聞くと人は耳が遠くなるのだろうか、いや違う……脳が言葉を処理しようとしていたのにまるで混線してしまったみたいだ。
ベッドのすぐ側まで来た祐二の顔がハッキリ見える。
確かに怒って俺を睨みつけている、でもその原因がソレ?
「部活までサボったんだろ? 何だよ、チョコを貰うのに忙しくてそれどころじゃなかったとか言ったらぶん殴るぞっ!」
そんなわけない、祐二やあの子と顔を合わせるかもしれない学校に居られなかったからだ。
逃げるように帰って来た、いつも一緒に帰る祐二のことさえもその時は頭の中から消えてしまうほど俺は動揺していたんだ。
それなのに祐二は俺が黙って帰ってしまったことに憤慨している。
喜んでいいのか、安堵していいのか、よく分からなくなっていると怒っている祐二がグイッと顔を寄せてくる。
「オイッ! 何とか言えよっ!」
「ごめん……祐二」
「ま、まぁ……俺もその辺の女子にお前が帰ったって教えてもらったからいいんだけど……さ。それよりお前、マジでなんかあったんだろ?」
素直に謝る俺に居心地が悪そうにソワソワしながらボソボソと聞き取りにくい声で祐二が言った。
自分は祐二のどんな変化にも気付く事が出来る自信がある、でもまさか……祐二が自分の変化に気付くなんて思いもしなかった。
「な、んで?」
いつもと変わらない素振りを見せていたつもりだった。
いくら幼なじみの祐二でも気付かないように気付かれないように、細心の注意を払っていたのにまさか祐二が……という思いしかない。
見たもの聞いたものをそのまま素直に受け止めるところが祐二の長所。
祐二自身は感情表現は豊かだけれど、他人の感情の機微や表情の奥に隠れた心を読み取れるほど繊細とはいえないからなおさらだった。
「お前が俺に黙って帰るなんて絶対ありえねーだろ。俺がどんなに怒っても機嫌が悪くてもお前だけはぜってーニコニコしながらそばにいんだろ。いねーとか今までなかったし」
「そう、だっけ……」
「そうだろ! ったく自覚ねぇのかよ」
祐二の言うとおりだと思ったけれど誤魔化した返事をすると、呆れたように盛大なため息をつかれてしまった。
「だから、お前が側にいねぇとかありえねぇーの」
そこに特別な感情がないことは分かっているのに涙が出そうになった。
自分の中にこんなに豊かな感情があることに驚かされる。
[*前] | [次#]
コメントを書く * しおりを挟む
[戻る]