『番外編』
My one and only lover.【6】
二人で過ごした最後の夜はすごく穏やかだった。
降っていた雨もいつの間にか止み静かな部屋で俺は真子の体を抱きしめた。
何度となく体を重ねた狭いシングルベッドでこれ以上ないほど体を寄せ合い真子が眠りにつくまでその頼りない小さな背中を撫でた。
真子の抱える心の痛みも体の傷もすべて自分が代わってやりたいと心の底から願った。
綺麗になった顔には痛々しい傷跡が残る。
少し寝ては目を覚ます真子を俺は決して離さずにずっと側にいると安心させるように抱きしめた。
「……ま、さき」
小さな寝言で俺の名前を呼ぶ。
真子が襲われた時にどんなに怖い思いをしたか分からない。
それを聞かされた時の俺は我を忘れるほど怒りに震えた。
(あの男だけは許さねぇ……)
自分にこれほど大切なモノが出来るとは真子に出会うまで思ってもみなかった。
我を忘れるほど怒りに震えた自分に真子の存在がどれほど自分の中に深く入り込んでいたのか気付かされた。
疲れた顔をして眠り真子の髪を撫でて額にキスをする。
額にも擦りむいた痕がある。
「もうこんな思いはさせない。ずっと側にいてお前を守る」
真子の寝顔に誓うように呟いた。
その前にやる事だけやらなくてはいけないと真子を起こさないようにベッドから出ると受話器を取った。
その日は静かな夜明けだった。
テツと連絡を取った俺はまるで禊をするように冷たいシャワーを浴びた。
自分の中で決めた事にもう迷いはなかった。
今まで好きなことばかりをやってきたけれどこれからは真子の為に生きていく。
「雅樹…? 戻って来るよね?」
「当たり前だろ。お前こそ部屋から出るなよ」
これから何をしてに行くか悟った真子が俺に縋りついて止めるのを優しく宥めた。
真子がどれだけ言ってもどうしてこれだけは譲れなかった。
涙を浮かべる真子の体を離した俺は玄関に立ちドアを開けると立ち止まった。
(泣かせるのはこれが最後だから)
「真子…卒業したら…一緒に暮らすか」
照れくさくて顔が見れなかった。
もう真子がいない生活は考えられなかった、真子のためなら親父に頭を下げる事だって出来るそう思った。
これが終わればずっと真子の側にいられる。
俺はそう思いながらバイクに跨った。
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