『番外編』
世界最強言霊使い【1】

「どこか具合でも悪いの? さっきからちっとも食べてないみたいだけど」

「そんなことないよ」

「そーぉ? チョコレート食べ過ぎたんじゃないの?」

 母さんがクスリと笑うのを見て俺は仏頂面を少しだけ緩ませた。

 母さんの言うとおり皿の中のグラタンはほとんど減っていない、ただ理由はチョコレートの食べ過ぎではないけれど。

 こんな日に限って二人きりの食事は気が重い、父さんは出張中で兄貴はバイトで帰宅は深夜になるという。

 あまり心配はかけたくはない、仕方なくグラタンを口の中に押し込んだ。

 自分の好きなエビのグラタンなのに、食べてもまったく味がしない。

 こんなのは……あの時以来、祐二に初めての彼女が出来た時だ。

 でもあの時はどこか覚悟していたし、やっぱり受け入れなければいけないという思いがあったから、ここまでは落ち込みはしなかった。

 けど今回は違う。

 今回は自分が招いたことだ。

 ため息が出てしまいそうになるのをグラタンを食べて誤魔化していると、玄関のチャイムが鳴り母さんは俺をチラッと見て意味深な笑みを送るとイソイソと出て行った。

 学校で渡せなかったという理由で家にまで来る女の子がさっき続けて二人来たばかりだった。

 早く一人になりたいのに……。

 もう、誰も来ないでと願っていると玄関の方から聞こえて来た声にハッとした。

「おばさんも用意してたのよー」

「やった!」

 楽しそうな母さんの声の後、弾むその声は間違いなく祐二のもの。

 どうして……。

 いつもなら一番嬉しい人の訪問に今日だけは体を強張らせてフォークを握りしめた。

「あー飯の途中だったー?」

「祐二くんは食べた?」

「食った!」

 賑やかに話をしながら母さんが戻って来た、もちろん隣には祐二が立っている。

 入って来た祐二と目が合いそうになって慌てて視線を逸らした。

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