『番外編』
誰にも言えないバレンタイン【3】

 ポケットに入れた手が細かく震えた。

 今感じているのは罪悪感、これからあの子の気持ちを裏切って祐二に嘘をつく。

「こんな奴のどこがいいんだか、ぜっんぜん分かんねぇのにな? 日和もそう思うだろ?」

「ん〜? そうかなぁ〜?」

 祐二の言うとおりだよ、こんな俺のこと知ったら……本当に嫌いになる。

 どんなに頭が良くても、運動が出来ても、見た目が良くても、俺の中にはこんなに醜い感情がドロドロと渦を巻いている。

 きっとこんな自分を本当に好きになってくれる人なんていない。

 好きな人に好きになってもらうどころか……ただ好きな人の側にいたいという小さな願いも叶わないだろう。

「おい……どうしたんだよ」

「ん? 何でもないよ。あ、そうだ……コレ祐二に渡してくれってさっき預かったよ」

 手に持っていた小さな箱を差し出すと祐二の顔がパァッと明るくなる。

 そんなに喜ばないで……。

 嬉しそうに手を出すのを見て意地悪したくなったけれど、何かするよりも早く祐二の手は小さな箱を攫っていく。

「ん? 名前とかねーな、誰からだった?」

「あ……ごめん。名前聞かなかった、誰……だったかな。俺も名前知らない子で……」

「なっんだよ! 使えねぇなぁー、ちゃんと名前くらい聞いとけって!」

「ごめん、祐二」

「ま、まぁ……そんなへこんだ顔すんなよ。お、お前と違ってどーせこれも義理だろうし、名前なんて関係ねぇし!」

 表情を曇らせた俺を見た祐二が慌てて笑いかけてくれる。

 今からでもメッセージカードを……いや出来ない、こんなにクシャクシャになってしまった言い訳が出来ない。

 本当のことを言えば……祐二は二度と俺と口を利かない。

 ごめんね、本当にごめんね。

 祐二がいない生活も、祐二を誰かに取られてしまうことも、俺にはまだ覚悟が出来ないんだ。

 でも……いつか打ち明けよう、この罪悪感は重すぎる。

 こんな最低な俺を許してくれなくても、祐二の中で憎しみの対象として俺を忘れないでくれたらそれでもいい。

 だからその時のために祐二から離れる準備を始めよう。

 それまではその真っ直ぐな笑顔を俺に向けて欲しい……二度と会えなくてもその笑顔をいつでも思い出せるように。

end
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